挑戦!戦闘クエスト -9-

文字数 1,767文字

 人助けクエストより稼ぎは悪いが、少しずつレベルアップしている。この辺の敵は難なく倒せるようになってきたので、そろそろ場所を変えても良いかもしれない。ただし、油断は禁物だ。称号が示す通り、コージはまだ”ひよっこ”なのだ。
 陽がだいぶ傾いてきたころ、コージは北屯所に帰ってきた。待機所の人影はまばらだが、奥からへべれけになったような男たちの騒ぎ声がしている。平八はここに食堂もあると言っていた。仕事終わりの団員たちが、大人数で盛り上がっているようだ。コージも空腹を覚えていたが、まず先に討伐報告だ。途中ピンチだったこともあって、大まかにしかカウントできてはいないが、それでも討伐数は三十は超えている。どれだけ倒したか証拠があるわけではないが、そもそも倒した敵は消えてしまうのだから仕方がない。
 最初に通された部屋まで行くと、平八が座禅を組んで目を閉じていた。
『コージ殿か』
 コージが声をかける前に、目を閉じた状態の平八が口を開いた。なぜ分かったのだろう。コージの心を読んだかのように、平八は口元を緩めた。
『足音や気配で識別できる。それに晩方に訪れる客人は少ないのでな。お主ではないかと思った』
 戦国時代の生活など知らないコージだが、平八のような人を武人と呼ぶのだろうと思った。ようやく目を開けた平八と視線が交差し、何とも言えない緊張感に包まれる。
『かなりの数を討伐してくれたようだな。初陣にも関わらず天晴れ。気持ちばかりだが、報酬をお送りするので、後ほど確認していただきたい。今日はもう晩い。食事を摂って休まれるがよい』
 そういうと平八は立ち上がった。その手には長さがゆうに六メートルはあろうかという長槍が握られていた。
『日の中はお主たちがいてくれたお陰で、私は休むことができた。夜間の張番は私が務める。安心して休まれよ。また敵を倒してくれた時は、私のところまで来てくれ。いちいち討伐の依頼を受けずとも、報告さえしてくれれば報酬をお渡ししよう』
 平八はコージの横を通り過ぎて行った。その後ろ姿は、自信と誇りが溢れていた。こうしてクエストは完了した。
 お言葉に甘えて、休ませてもらうことにしたコージは食堂にいた。そして、ビールジョッキを持った武士姿のおっさん連中に取り囲まれていた。
『あんちゃん新入りだろう? ここは俺が奢ってやるから、遠慮なく呑みな!』
『ご馳走になりまーす!』
『馬鹿、お前じゃねえよ! あんちゃんに言ったんだ』
『なあ、あんちゃんは何匹倒したんだ? 俺は三匹倒したところで酒が恋しくなってよ、昼から酒盛りよ!』
『報酬より酒代の方が高くついてんじゃねえかよ! 計算もできねえのか、お前。ガハハハハ』
 コージが喋らずとも、勝手に周りが盛り上がってくれている。とにかく声がでかい。その声で至近距離で騒いでくれるものだから、耳鳴りしっぱなしだ。武士姿でビールジョッキというシュールな姿が時代設定ぶち壊しのドラマのようだが、料理は素朴ながらも美味だった。野菜の煮つけにひじきの煮物、冷奴に魚の干物。それらを肴にビールをガンガン注がれる。どこまで武士の時代を再現しているのかは不明だが、先輩や上司に相当する年齢の人間が酒の席で新人を囲む光景は、昔も当時も変わらないのかもしれない。ルナの中でもアルコールの効果は抜群で、コージは酒が回ってだんだんと気持ちよくなってきてしまった。
『お、さすがに目が回ってきたか? だがまだ帰れねえぞ? あんちゃんが主役なんだからな。今日は祝いに魚でも卵でも頼め! 俺らがおこぼれをいただくから、余る心配はすんな!』
 聞けば普段はもっと質素な食事らしく、基本は麦飯に汁物、それに漬物などのおかずが一品が付くだけだという。何かのお祝いをする時だけは、魚や豆腐や卵と、少し豪華なラインナップの食事をするとのことだった。何でも頼めと言われて先の料理を頼んだが、なぜかマグロの刺身は『武士がそんな物食えるか!』と言われて頼ませてもらえなかった。武士が頼まないメニューを、ほとんど武士しかいない屯所の食堂のお品書きに書くなよと思ったが、黙っておいた。
 飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。逃げ出す隙が見いだせず、そのまま夜が明けるまで宴に巻き込まれてしまったコージは、この日、初めてルナの中で一夜を過ごすことになるのだった。
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