挑戦!戦闘クエスト -6-

文字数 1,411文字

 コージはフェンスの外にいた。敵を倒して道具やゴールドを得られるRPGゲームが、いよいよ始まる。高揚してきた。こういうゲームは、その辺を適当にうろついていれば敵とエンカウントする。詰所から離れすぎない程度に動いてみよう。荒れ果てた荒野に隠れられるような場所は無い。それは相手にとっても同じこと。これだけ見晴らしがよければ、敵の接近にも気付けるだろう。
 荒野の先に草原が、さらにずっと先に山脈が見える。借りているルミナティソードの代金の代わりとなる宝の一つ、イオツミスマルがあるアマト鉱山があの山脈のどれかだろうか。いずれは、あの遠い場所に赴くことになる。持ち逃げしようものなら、どこまでも、それこそ現実世界にまでも追ってきそうだ。ゲームキャラクターが現実世界に現れるなどあり得ないが、コテツならそういう常識を無視してやりかねないオーラがあった。
 回想しながら歩いていたその時、「クリーチャーが現れた!」というガイドが表示された。慌てて立ち止まったコージの足元の地面が盛り上がり、カボチャが十個並んだような大きく長い青虫が登場した。頭の部分だけが異様に大きい。口の部分からは、ただの青虫であれば無いはずの鋭い牙が覗いている。敵の上に吹き出しが表示され、中には「グリーンワーム」と書かれている。クリーチャーの名前だ。
「いでよ、ルミナティソード」
 いったん距離を取り、武器を呼び出す。初めての戦闘開始だ。
『ギャギャー!』
 奇声を上げながら向かってくる。動きは青虫そのものなのに、スピードがある。グリーンワームの噛みつき攻撃を避け、武器を振るった。剣身が敵を切り裂く。敵は横に一回転し、即死は免れたようだが、致命傷を負った。先ほどと違って動きが鈍い。
「もらった!」
 コージは飛び掛かり、グリーンワームの頭に剣を突き立てた。
『アギ……』
 圧し潰されたような声を漏らし、敵は息絶えた。荒い呼吸をするコージの前で、グリーンワームは徐々に薄くなっていき、完全に姿を消してしまった。「戦闘に勝利した!」のガイドが現れ、初めての戦闘に勝利したのだと理解した。
「よっしゃ!」
 コージは剣を掲げた。鼓動のように、ガーネットに当たった光が膨らんで萎んだ。「コージは経験値を50手に入れた!」「コージは40円手に入れた!」ガイドが続いた。今回得られた金は少額だが、敵が強くなれば報酬も上がるし、戦闘を繰り返せばなかなかに稼いで行けそうだ。報酬より、今は達成感の方が大きかった。バーチャルリアリティの戦闘は迫力満点だ。つまらない仕事をして、働いても働いても将来の不安が消えず、精神をすり減らしながら過ごす世界に比べたら、どんなに素晴らしいことか。コージは息を整え、次の標的を探しに出かけた。
 その後はグリーンワーム単体との戦闘を四回こなし、今まさに五匹目を倒そうとしていた。腹部に剣を突き立て、止めを刺した。五匹目は他と様子が異なり、グリーンワームが消えた後に、オレンジ色の液体が入った小瓶が現れた。「コージは回復薬を手に入れた!」というガイドが表示されたのち、小瓶は光となってコージのアームヘルパーに吸い込まれていった。プロフィールを確認すると、道具のメニューが追加されており、そこに「回復薬×1」が入っていた。
 敵のアイテムドロップだ。いちいち手で拾い上げずとも、勝手に収納されてくれるようだ。コージは楽しくなってきた。山脈に向かって荒野を進んだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み