はじめてのボス戦 -14-

文字数 1,523文字

「フミトーーーー!!」
「……ぷはっ」
 息が漏れた。フミトが荒い呼吸をしている。これは、息を吹き返したというより、ずっと息を止めていたが我慢しきれずに息を吸ってしまった感じの呼吸の仕方だ。フミトは小刻みに震えている。というか、笑ってやがる。
「あははは!」
「は? お前……?」
「レベルが上がって全快したんで、何ともないっす! 心配してくれて嬉しいなあ。コージさんビビりました? あははは」
 横になったまま腹を抱えているフミトを、タコ殴りしておいた。冗談にしても最悪すぎる。どれだけ心配したと思っているんだ。本気で心配した分、悪戯だと分かったあとの感情の反転で、その怒りたるやすさまじかった。
「もう知らん」
「そんな怒んないでくださいってば~。レベルが上がると全快するって知ってると思ってたんすよ~」
「そういう問題じゃないだろ」
「死にかけたのはホントなんすから、もう少し労わってくださいよ~」
「悪ふざけする元気があるなら平気だろ」
「コージさんみたいに心配してくれる人なんていなかったから、つい構ってほしくなっちゃうんすよ~。オレ親も兄弟もいないし」
「は……?」
 唐突な発言で、コージの怒りはどこかへ行ってしまった。
「捨て子だったみたいで、施設で育ったんすよ。だから、親の顔も知らないし、兄弟がいるのかどうかも分かんないんす。学校で知り合った奴らは、たぶんそいつらの親のせいっすけど、腫れ物に触るような扱いしてくるから、友達になんてなれなかった。だから、ネットにしか知り合いがいなかったんす」
 ルナで遊ぶようになり、サチコの勧めでアーチャーになり、NPCの又五郎に子供のように可愛がられた。妙にリアルなこの世界で、又五郎は仮想父親のような存在だった。それでも、現実にはいない、あくまでも仮想世界でのキャラクターだ。フミトの孤独は半分しか癒されなかった。
 だが、フミトはコージと出会った。NPCではない、現実の世界に存在する人間と。
「コージさん、オレの分まで薬買ってくれたり、役立たずなオレを必要としてくれたりしたんで、それがマジで嬉しくて。心配なんてしてくれる人いなかったから」
「……そっか」
「でも、悪ふざけが過ぎました。ごめんっす」
「……次はやめろよ、あんなこと。こっちの心臓が持たない」
「……うっす! へへ」
 フミトは照れ臭そうに頬を掻いた。
 コージはフミトの孤独が分かる気がした。捨て子ではないが、社会人になってからは都合よく扱われるだけの便利屋だった。会社への帰属意識など持てるはずもなく、社内では常に孤独だった。かつて友人だった面々も、ある者は家庭を持ったために、そしてある者は理由もなく去っていった。誰からも理解されないという感情がいつもあった。
 境遇こそ違えど、二人は孤独だった。そんな二人が、今はパーティを組み、相棒と呼べる存在になっていた。負と負を掛ければ正になるように、二人が揃えば前向きになれた。ただ、本音の伝え方が不器用なだけなのだ。
 それぞれのプロフィールを見ると、ともにレベルが上がり、称号が変わった。

名前――コージ
称号――仲間思いの戦士
職業――戦士
所持金――¥40,050
Lv――14
経験値――22,120
体力――245/245
ステータス――正常

名前――フミト
称号――仲間思いの弓師
職業――アーチャー
所持金――¥19,500
Lv――14
経験値――24,900
体力――180/180
ステータス――正常

 言葉は下手でも。素直な気持ちを伝えることが不得手でも。伝えられた言葉すら、どこか素直に受け取ることができなくても。それぞれを思いやることはできる。二人は互いを思っている。称号が、はっきりと二人の思いを表してくれていた。
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