クエスト -3-

文字数 1,290文字

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クエスト内容:配達
依頼主より:あー忙しい忙しい! 忙しすぎて料理してる暇が無いから、誰か夕食持ってきて! 牛丼三つね! もちろん生卵も!
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 やはり自分は現実世界にいるのではないかと思わざるを得ないほど、平凡な宅配クエストだった。掲示板に依頼を出してる暇があるなら自分で買いに行けるだろうというツッコミは置いておいたとしても、だ。現実世界で、そこかしこを自転車で走って宅配しているサービスを連想してしまう。そして届け先が書いていない。どうやって届けろというのだ。
 コージが脱力していると、アームヘルパーに触れてもいないのに、目の前の空間にパネルが開いた。「このクエストを受注しますか?」という文言の下に、「はい」と「いいえ」のボタンがある。ここで「はい」を押せば、依頼を受けたことになるようだ。こき使われているようで何となく気が進まないクエストだが、他は戦闘クエストなので、仕方なく「はい」を押した。
 すると、視界の右端に横長の長方形のパネルが現れた。「牛丼屋に行こう!」となっている。NPC(=non player character:プレイヤーが操作しないキャラクターのこと)が言っていたガイドとは、これのことだろう。目的を忘れないように、ご丁寧に注意を促してくれているのだろう。そして、これまたご丁寧に、牛丼屋があると思われる場所の上空に、下向き矢印が出ている。あの矢印に向かっていけば良いようだ。
 牛丼屋に着いて、指定された数の牛丼を受け取った。もちろん生卵も。便利なことに、店員から「お代金はいただいております!」と言われ、コージは一円も払わずに済んだ。
 店を出ると、ガイドの内容が変わり、「商品を届けよう!」になった。それと同時に、上空の矢印の場所も変わった。とっとと届けてしまおう。コージは早歩きで矢印を目指した。
『夕食持ってきてくれたのね? お礼は振り込んでおくわ。あー忙しい忙しい!』
 家から出てきた中年女性は、コージから牛丼の入った袋を奪い去ると、お礼も言わずに戻っていった。殴ってやろうかと思った。飲食店の従業員はこういう客も相手にしているのかと考えさせられる。
 苛立つコージの視界の中心に、「クエスト完了!」という派手な演出が表示された。客の態度の悪さはいったん胸にしまい、どれくらいの報酬がもらえたのか、メニューのプロフィールを確認した。

所持金――¥1,000
経験値――50

 「所持金」と「経験値」の部分が更新されていた。ただのお使いということを考えれば、妥当な金額なのだろうが、なんとも悶々とする報酬だ。そして、報酬以外に経験値が貰えた。セレーネは、経験値が増えるとレベルが上がり、それに伴って体力も上がると言っていた。目下の目標は、人助けクエストをこなしてレベルを上げ、体力を上げることだろう。体力が上がれば、戦闘クエストの受注にヒヨることもない。
 思うところはあるが、とりあえず、ゲーム感覚で金を稼げた。それで良しとしよう。コージは自分に言い聞かせ、自宅に戻ることにした。
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