プロローグ~変化~ -3-
文字数 1,334文字
何かと思えば、先日応募したモニターの商品だった。大きな段ボールを開けると、緩衝材に包まれた箱が二つ。その中には、VRヘルメットと、分厚い腕輪のような形をした薄いグレーの機械が二つ入っていた。手に取ってみると、なめらかな肌触り。知っているような、初めてのような、不思議な感触だった。段ボールの底には、『取扱説明書』と書かれた小冊子が入っていた。内容を読み進めてみると、このようなことが書いてあった。
とにかくすごい装置であることは分かった。充電のいらない装置だの、現実と同じように五感が使えるだの、科学技術の結晶じゃないか。普通に買ったらどれほどの値がするのか想像も付かない。こんなものを無料で送ってくれるなんて、金のあるところはやることが大きい。早速使ってみたい気もしたが、まずは腹ごしらえをすることにした。
冷凍しておいた白米を解凍している間に卵を焼いた。ご飯、卵焼き、納豆、インスタント味噌汁。休日の定番メニューだ。今朝は昨晩の残り物の肉じゃがも付く。
葉物野菜や肉は高いし、魚は調理が面倒なのでほぼ買わない。そうなると、自ずとメニューも限られる。必要に迫られての自炊だが、もともと料理は好きなので苦痛ではない。安く食えれば何でもいい。買い食いや外食が嫌なわけではない。料理は好きだが洗い物が手間だし、生ゴミは増えるし、少ないレパートリーのサイクルだから栄養が偏る。添加物が多いとは言われるが、コンビニ弁当も牛丼もファミリーレストランのメニューも旨い。食えるものなら食いたいが、財布事情がそれを許してくれない。
惨めなものだ。毎週五日間、一日八時間以上の時間を労働に費やしているというのに、金に困る生活を強いられている。何に希望を持って生きろというのか。
食事が終わって洗い物と洗濯を済ませた。ベランダに干したTシャツがだらしなく風になびいている。これで洗濯物が乾くまでやることは無い。いつもならゴロゴロとスマホで無料動画でも見ていることだろう。だが、今日はやることがある。ゴロゴロしている場合ではない。
晃司は説明書通りにVRヘルメットを被り、アームヘルパーを両腕に装着した。不思議な感触だ。ヘルメットの中は金属のようにひんやりとしているが、固くもなければ重くもない。視界はゴーグルのせいで薄暗くなった。子供が初めてゲームを手にした時のような興奮を覚えながら、ヘルメットの頭頂部にある電源スイッチを押した。
・装置には最新の研究で生まれた永久式充電が使用されているため、充電不要
・「ルナ」を始めるには、VRヘルメットと、アームヘルパーと呼ばれる腕輪型の装置を両腕に装着する必要がある
・その二つを装着した状態で、ヘルメットの電源を入れると、装置が起動する
・初回だけログイン処理が必要で、アバターやニックネームの設定をしなければならない
・起動中は睡眠状態になり、ルナでも現実世界と同様に自分の意思で動ける
・ルナの中でも物に触れたり、匂いを感じたり、音を聞いたりできる
・左腕用のアームヘルパーにボタンがあり、押すと設定メニューが開く
・現実世界とルナの世界に行き来する際は、設定メニューの「ルナへ行く」「ルナから帰る」を選択する
・詳細は起動後のチュートリアルで説明される
とにかくすごい装置であることは分かった。充電のいらない装置だの、現実と同じように五感が使えるだの、科学技術の結晶じゃないか。普通に買ったらどれほどの値がするのか想像も付かない。こんなものを無料で送ってくれるなんて、金のあるところはやることが大きい。早速使ってみたい気もしたが、まずは腹ごしらえをすることにした。
冷凍しておいた白米を解凍している間に卵を焼いた。ご飯、卵焼き、納豆、インスタント味噌汁。休日の定番メニューだ。今朝は昨晩の残り物の肉じゃがも付く。
葉物野菜や肉は高いし、魚は調理が面倒なのでほぼ買わない。そうなると、自ずとメニューも限られる。必要に迫られての自炊だが、もともと料理は好きなので苦痛ではない。安く食えれば何でもいい。買い食いや外食が嫌なわけではない。料理は好きだが洗い物が手間だし、生ゴミは増えるし、少ないレパートリーのサイクルだから栄養が偏る。添加物が多いとは言われるが、コンビニ弁当も牛丼もファミリーレストランのメニューも旨い。食えるものなら食いたいが、財布事情がそれを許してくれない。
惨めなものだ。毎週五日間、一日八時間以上の時間を労働に費やしているというのに、金に困る生活を強いられている。何に希望を持って生きろというのか。
食事が終わって洗い物と洗濯を済ませた。ベランダに干したTシャツがだらしなく風になびいている。これで洗濯物が乾くまでやることは無い。いつもならゴロゴロとスマホで無料動画でも見ていることだろう。だが、今日はやることがある。ゴロゴロしている場合ではない。
晃司は説明書通りにVRヘルメットを被り、アームヘルパーを両腕に装着した。不思議な感触だ。ヘルメットの中は金属のようにひんやりとしているが、固くもなければ重くもない。視界はゴーグルのせいで薄暗くなった。子供が初めてゲームを手にした時のような興奮を覚えながら、ヘルメットの頭頂部にある電源スイッチを押した。