神官を追って -6-

文字数 1,445文字

――――――――― コージSIDE ―――――――――

 コージは自分のトロッコの操作レバーを探すが見当たらない。下り坂で制御も効かないとなれば、速度は増すばかり。その中にいるコージも生きた心地がせず、嫌な寒気に襲われていた。急降下して急上昇すると一瞬無重力になり、身体も脳も浮いたような感覚になった。続いて、下に凸の放物線を駆け下りたと思えば、途中でレールがぷつりと消えている。平仮名の「し」を左に傾けたような形になっている。
「えええええ!?」
 途切れたレールを斜め四十五度の角度で飛び出したトロッコは、不連続なレールの続きにうまい具合に乗っかり、スリル満点のトロッココースターの旅は継続する。真っすぐなレールが続いたかと思いきや、やはりぷつりと切れていて、微妙な高低差で階段状になっているレールをガタンガタンと降りていく。
「で! いで! 痛え!」
 まるで段々畑の形状に忠実に沿って作られた滑り台を駆け下りているような感覚で、段差が現れるたびにコージの尻に衝撃が走る。鉱石や土砂を運ぶという本来の目的を忘れ、レジャーに全振りしたアトラクションと化している。
 尻と腰の痛みと恐怖が限界だが、しばらく勾配のない直線を進んできたお陰でだいぶスピードが落ちている。また下り坂が出てくるのが見えたら、多少の怪我は覚悟で飛び降りることも考えておかないといけない。この様子では、安全に止まってくれる保証などどこにもないのだから。次に取る行動に考えを巡らせていたコージの視界に、「クリーチャーが現れた!」の表示。
「くそ! こんな時に! どこだ!?」
 上からアイバットが来たのか、前から何か現れるのかと前のめりになって周囲を見渡すが、どこにもいない。もしかしたら、通り過ぎてしまったのか。
「驚かすなよ……」
 ほっとしたコージだったが。
『ねえ。わたし、綺麗?』
 なんと真後ろから声が聞こえてきた。バッと振り返ると、口裂けレディ(マスク外し済み)が一緒のトロッコに乗って体育座りしていた。
「うわあああ!」
 コージはなりふり構わずトロッコを飛び出し、地面を転がった。トロッコに乗ったままの口裂けレディは『ねえわたしきれ――』と同じことを言いながら遠くに運ばれていった。暴走トロッコとはベクトルの違う恐怖を味わうこととなったコージは、よろよろと立ち上がる。トロッコの速度が落ちていたのと、飛び降りた時に転がったおかげで衝撃を分散できたからか、動けないほどの怪我はなかった。
「なんなんだここは……」
 広い空洞になったそこは、進めそうなトンネルが三ヵ所あった。うち二ヵ所はトロッコが走り抜けたレールが貫いている。もう一ヵ所のトンネルの入口には垂れ幕がかかっていて、前には怪しげな祭壇が置かれている。いかにも何か儀式をしたという感じの雰囲気だ。封印の場所はここに違いない、とコージの勘が告げていた。問題はこの後の行動だ。フミトを見つけて二人で進むか、先に一人で進むか。鉱山の中でどこがどう繋がっているのか全く分からないのだから、待っていてもフミトが一人で来れるかは分からない。コージが探しに行くとしても、迷路のようなこの坑道を闇雲に探し歩いて、またここに戻って来れるか分からない。
 時間が無限にあるのなら、探し回ってフミトと合流するが、今は一刻を争う。そうなれば、一人で進むしかない。腹をくくった。
「信じるぞ、フミト」
 フミトが無事であることと、いずれ合流してくれることを信じ、コージは怪しげな祭壇の奥のトンネルに進んだ。
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