はじめてのボス戦 -7-

文字数 1,749文字

 ハンダ荒地を抜け、アラハド草原に差し掛かったあたりで、フミトが足を止めた。
「ここいらで腹ごしらえしません? そろそろ腹減ってきたっす」
「ここでか……?」
 隠れる場所も無い無防備な場所。見晴らしはいいが、敵が現れる可能性を考えると、どうしても不安になる。そんなコージの懸念をよそに、フミトは弓に矢を番えて地面に向ける。
避魔(ひま)の矢!!」
 フミトの放った矢が地面に刺さると、そこからドーム状に不思議な空間が広がっていき、それはやがて他者を寄せ付けない結界となった。
「こ……これは……?」
「オレのスキルっす! どうっすか!?」
 コージは結界を見渡して息を呑んだ。まるで外界から切り離されたようなその空間の中は、神聖な雰囲気すら漂っていた。
「避魔の矢はクリーチャーを寄せ付けない結界を作るスキルっす! オレ、レベル11になったんで、このスキルが使えるようになりました!」
「スキル?」
「ほら、よくあるじゃないっすか。レベルが上がると新しい技を覚えるってやつ。あれっすよ!」
「そんなのがあるのか……。全然知らなかった」
「コージさんは、まだスキル無いんすかね? プロフィール見てます?」
「いや……。そういうのって見ないと分からないのか?」
「……コージさん、ヤバいっすね」
 フミトに苦笑されてしまった。居心地の悪さを感じながらも、プロフィールを開いてみる。すると、「スキル・術技」の項目があり、確認すると「瞬斬剣」という技を使えるようになっていた。
「お! なんかあるぞ!」
「ちょっと押して説明読んでください」
 術技名はリンクになっていて、タッチしてみると内容の説明が表示された。

――――――――――――――――――――
【瞬斬剣】
目にも止まらぬ速さで敵を斬り付ける技
※戦闘中のみ使用可能
――――――――――――――――――――

 術技の説明を読んだら、どのように技を出したら良いのかが何となく頭に浮かんだ。
「かっけー! コージさん、次の戦いの時に使ってくださいよー!」
「お、おう……。すごいな。説明を読んだら、技の出し方が何となく分かった」
「オレも同じっす! 覚えたスキルの説明を読むことが、実際に使えるようになるトリガーっぽいっすね」
「スキルや技を覚えても、説明を読まないと使えるようにならないのか。そうなると、しょっちゅうプロフィールを確認しないといけなくなるな」
「レベルが上がったら要チェックっすね」
 レベルが上がればガイドが表示される。できればそのタイミングでどんな技を覚えたかが分かると良いのだが。何はともあれ、フミトのスキルの効果で安全な場所ができたので、安心して昼食をとれる。二人は街で買ったかつ丼とお茶を出して食べ始めた。食事の最中にアイバットが接近したが、コージ達に気づかずに結界の傍を通り過ぎて行った。結界の中に居れば、外からは見えもしなくなっていそうだった。
「このスキルすごいな」
「オレもびっくりっす! 戦闘ではコージさん頼りなことが多かったんで、せめてサポートくらいはできないとって思ってたんすよ。役に立ててよかったっす!」
 そう言ってかつ丼を頬張る。コージはフミトを足手まといだなどと思ったことは無かったが、フミトの方は思うところがあったようだ。普段の言動だけでは、真意までは汲み取れない。本音は言葉にしないとだめだと感じた。
「俺はフミトがパーティを組んでくれて良かったと思ってるよ。フミトからいろいろ教わった。セーブポイントのこととか、現実とのリンクとか、ルナのシステムの使いこなし方とか。今だって、フミトが教えてくれなきゃ、術技の存在にも気付けなかった。フミトには普段山ほど助けられてるんだから、戦闘の時くらいはかっこつけさせてくれよ」
 これがコージの本音だった。楽しくもない現実世界の社会的立場から脱却する勇気をくれ、仮想世界での生き方を教えてくれたのは、他でもないフミトだ。感謝こそすれ、邪魔者だなどと思うものか。
「……ざっす」
 照れ隠しなのか、フミトは身体ごと横に向けてかつ丼をかき込んだ。本音は伝わっただろうか。それとも、調子の良い社交辞令だと思われてしまっただろうか。どちらにせよ、コージの本音は正面からぶつけた。後は信じてもらう他ない。コージも黙ってかつ丼を食べ進めていった。
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