はじめてのボス戦 -11-

文字数 1,378文字

「それより、また慎重に進もう。敵が出るかは分からないけど」
「もしものときは結界張るんで、任せてくださいっす! あ、あと、オレもレベルアップして違う技を覚えてたんで、ようやく戦闘でも役に立ちそうっすよ!」
「新しいスキルか? どういうやつなんだ?」
「ふっふーん。後のお楽しみっす!」
「お楽しみって……」
「どっちみち戦闘にならないと使えない技っすし、今ここで見せらんないんすよ。かっこいい技ってことだけ言っときます!」
 そう言って明るい笑顔を見せてくる。全力でゲームを楽しんでる子供みたいだ。そこが良いところであり、コージが羨ましく思うところでもあった。
 ザコ敵との戦闘をこなしながら草原を進んでいるが、一向に主が出てくる気配はなく、だんだんと陽が傾いてきた。点在する腰の丈ほどの高さの草が、さわさわと風に揺れる。緑の波が目の前で起きては、遠ざかる。草陰から時折飛び出してくるマンドラゴラのうるさい奇声を、切り伏せて黙らせる。貴重なマンドラゴラの根が入手できたので、後で薬屋に届けてやろう。
「今回は出て来ないのかもしれないな」
「あ、フラグ立った」
「フラグって……」
「こりゃ気を付けないと」
「茶化すなって」
 大げさなくらいに注意して歩いていたが、残念ながら主は現れなかった。フラグは立っていなかったようだ。フミトが「ちぇー」と口を尖らせている。
「必ずしも主が出てくるわけじゃないって言ってたし、今回は街に戻ろう。街で食料を充分に補給してから、また来よう。……食料というのはお菓子のことじゃないからな」
「な、なんも言ってないじゃないっすか。条件がハッキリしないのが悩ましいっすよね。その内、レベルが上がりすぎちまいそうだ」
 街の外を出歩いていれば、草原の主には巡り会わずともザコ敵とは遭遇する。ゲームとは異なり、逃げても追いかけてくるので、必ずしも戦闘を避けられるわけではない。戦って倒してしまった方が手っ取り早いのだ。だが、ザコ敵とは言え経験値は溜まっていくので、あまり戦闘しすぎるとレベルアップしてしまい、フミトが言った通り主が出てくるレベルの条件を満たさなくなってしまう。
「せめて帰りくらいは戦闘を避けるか……」
 コージは「空の守り」を取り出した。
「何すか、それ?」
「薬屋で買ったアイテムだよ。何でも、街までひと飛びで連れてってくれるらしい」
「へー! コーディネイトの呪文みたいっすね!」
「俺は使えないけどな」
「もういい加減に引き摺らないでくださいって」
「悪い悪い。じゃあ、街まで戻――」
 コージは言葉を強制終了させられた。突然、草むらから何かが飛び出し、コージの脇腹に体当たりしてきたのだ。身体は飛ばされ、ぐっと息が詰まったが、何とか体制を整えた。そして――

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※注意※ 草原の主キョトーオが現れた!
――――――――――――――――――――

 ガイドがボスの登場を告げた。人型で頭が異様に大きく、両手をぴったりと脚にくっつけ、まるで礼儀正しく気をつけをしているようだった。
「こいつか!」
「ついにボス戦……ってわけっすか」
 それぞれ剣と弓を構え、戦闘態勢をとる。こちらが武器を向けても、変わらず敵は大きな頭をゆらゆらと左右に揺らしている。目と口の位置にぽっかりと穴が開いており、奇妙な動きと相まってさらに不気味さを増している。
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