パーティ結成 -5-

文字数 2,160文字

 白い光が止むと、コージは屯所の魔法陣の上に立っていた。初めて自宅以外の場所からルナが始まった。これも彼の言う通りだった。静かな屯所の奥、食堂へとコージは向かった。食事を済ませてのんびりしている彼がそこにいた。
「お帰りっす。とっくに食い終わっちゃいましたよー。晩飯は結構美味いから期待したのに、朝飯はしょぼいんすねー。すぐ腹減りそう」
 食堂の奥から黒いオーラを纏ったおっちゃんが出てきて青年の後ろに忍び寄り、手に持っていたお玉で悪口を言った若造の頭を思いっきり叩いて戻っていった。とてもいい音が響いた。
「痛ってえーー! 叩くことないだろ!」
 涙目でぷんぷんしている。真剣な話をしたいのに、一向に空気が整わない。コージは咳ばらいをして仕切り直した。
「さっきはごめん。君の言った通りだったよ」
「でしょ? 不思議っすよね。こっちで食ってれば死なないし、永遠に遊んでられそうっすよね!」
 先鋭的ニートみたいなことを言っているが、本当にできてしまいそうなのだ。
「じゃあ、改めてパーティ組みましょか! あ、オレはフミトって言います!」
「俺はコージ。本当に俺でいいの? 先週から始めたばかりの素人だけど」
「問題ないっす! オレだって別にベテランってわけじゃないんで! これからよろしくっす」
「こちらこそよろしく。早速なんだけど、パーティってどう組んだらいいのか分かるかな? 普通に一緒に行動してれば良い?」
 ただつるんでるだけなら、学生のグループ行動になってしまう。パーティという仕様があるなら、メンバーリストが分かるような仕組みがありそうなものだ。
「パーティを組む!!」
 突然大声を出したフミト。いきなり何だと思っていると、目の前の空間にパネルが開いた。「パーティを組みますか?」という文言の下に、「はい」と「いいえ」のボタンがある。
「やっぱりな。この世界、何をしたいか口に出せば、だいたい思い通りにしてくれるみたいっす。じゃ、パーティ組んじゃいましょ!」
 ルナに順応している。コージなら、アームヘルパーを操作して探していただろう。若さの違いかな……などと思いつつ、お互いに「はい」を押した。すると、メニューの中で非活性だった最後のボタンが公開され、「パーティ」になった。
 パーティのボタンを押すと、コージとフミトの二人の名前が並び、横に職業と体力、経験値が簡易表示されている。フミトの名前を押してみると、彼のプロフィールが表示された。

名前――フミト
称号――わさわさ弓師
職業――アーチャー
所持金――¥1,100
Lv――8
経験値――7,130
体力――83/83
ステータス――正常

 本人は不本意だろうが、称号は言い得て妙だとコージは思った。フミトもコージのプロフィールを見ていたようで、大げさに驚いている。
「コージさん、先週から始めたってマジっすか!? オレなんて一ヵ月やってるのに、ほとんどレベル変わんないじゃないっすか!?」
 コージは自分のプロフィールを見てみる。

名前――コージ
称号――ひよっこ戦士
職業――戦士
所持金――¥6,150
Lv――7
経験値――4,350
体力――108/108
ステータス――正常

 コージはレベル7、フミトはレベル8。たしかに、プレイ日数の割には差がそんなにない。しかし、経験値の方はそれなりに差がある。
「レベルアップに必要な経験値がかなり必要なんじゃないかな? レベル差は一だけど、経験値の差は三千近くあるし」
「いやー、それにしてもっすよね」
「俺は先週は手伝いクエストしかやってなくて、昨日ようやく戦闘クエスト受注してクリーチャーと初めて戦ったんだけど。フミト君はどう過ごしてたの?」
「フミトでいいっす。オレは戦闘ばかりだけど、アーチャーは戦士より戦いにくくて、あんまり調子が上がんなかったっすね……。アーチャーは成り手が少ないから重宝されるって言われてテンション上がったのに、あの転職屋のゴリラめ」
 転職屋のゴリラとはサチコのことだろう。本人の目の前で言ったら、ひと睨みで命を持っていかれそうで恐ろしい。フミトは毒づいているが、コージの印象としては、サチコは見た目はともかく適職を見極める腕はありそうだった。
「多分だけど、フミトはパーティのサポートに入った時に力を発揮するタイプなんじゃないかな。サチコさんから重宝されるって言われたんでしょ? それって、パーティに入ると重宝されるって意味だと思うよ」
「えー! じゃあオレって主人公にはなれないってことっすか……」
「みんな主人公みたいなもんなんじゃないかな……?」
 主人公=戦士という認識になるのは分からなくもないが、オンラインゲームでも役割が違うだけで、別に誰が主人公とかはない。強いて言えば、みんなが主人公だ。
「一人だったから、うまくいってなかったってことすか? それなら、パーティ組んだ今なら超活躍できて超稼げるんすかね」
 それは知らん。とりあえず曖昧に笑ってごまかしておいた。
「そうと決まれば、早速出かけましょ! 敵を倒しまくって稼ぎまくってレベル上げまくりましょ!」
 腕をぐいぐい引っ張られて荒野へと連れていかれながら、まさしくわさわさ弓師だなぁと思ったコージだった。こうしてめでたくパーティとなったコージとフミトは、荒野の戦いに出かけるのだった。
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