パーティ結成 -3-

文字数 1,713文字

 待機所に降りて外に出ようとした時、奥が強く光ったかと思えば、そこから急に若い男が現れた。団員たちはみんな出払ってしまっていて、人の気配など無かったはず。コージは心臓が止まるかと思うほどに驚いたが、驚きすぎて声も出ずに立ち尽くしていた。そんなコージに気づいた男は、コージの様子など気にもせずに話しかけてきた。
「おはよーっす!」
 底抜けに明るい挨拶をしてきたラフな格好の茶髪の青年は、背中の弓を揺らしながら寄ってきた。
「お、おはよう……」
「これから狩りっすかー?」
 コージが一歩引けば、一歩近づいてくる。人懐こいというか物怖じしないというか、とにかくコージと違って陽キャなのは良く伝わってきた。陰キャのコージとは属性が全く違う青年と知り合いであるはずはないのだが、どこかで会ったような気がする。どこで会ったのかと記憶を辿っている間も、青年はお喋りが止まらない。
「オレはこの辺りの敵を狩ってるんすけど、あんまり稼げないし微妙っすね。じゃあもっと強い敵がいるとこ行けよって話なんすけど、アーチャーだから接近戦苦手だし、同時に何匹も相手できないし、一人だと限界あるんすよね。せっかく転職してガッポリ稼ごうと思ったのになー。占いなんて当てになんねーなー」
 占いというワードで思い出した。サチコのいた転職屋だ。リョウの旅立ちの手伝いをするために転職屋に行ったとき、先客がいた。それが彼だ。ハイテンションで飛び出してきた彼とすれ違った。まさかこんな所で再会するとは。
「誰かパーティ組んでくんねーかなって思ってるんすけど、お兄さんもう出かけちゃうんすよね? 一緒に行ったら、オレ、朝飯食えなくなるもんなぁ……。腹減りすぎて死ぬしなぁ。ルナの中でも腹減るとか、テクノロジーってすげぇ! みたいな?」
 相変わらず一人で喋っている彼を止めて、ようやくコージが話す番になる。今、間違いなくルナという単語を口にした。
「ちょっと待った。君はもしかして、ルナのプレイヤーなの?」
 青年はきょとんとして頷く。
「はい。ってか、どこからどう見てもそうでしょ? オレ、サムライの格好してないでしょ? お兄さんもそんな恰好してるから、仲間だと思って声かけたんすもん」
 悔しいが仰る通りだった。この自警団の屯所の中でラフな格好をしているのを見れば、お仲間なのは一目瞭然だった。いや、そんなことより。
「君、どこから来たの? 誰もいない場所から突然出てきたように見えたけど」
「そこのセーブポイントからっすよ」
「セーブポイント?」
「あれ、知らなかったんすか? この世界にはセーブポイントってのがあって、そこからルナに入ったり出たりできるんすよ。毎回自分の家からスタートしたんじゃ、めんどくさいっしょ?」
 彼が現れた辺りを確認すると、床に魔法陣のようなものが描かれていた。彼によると、魔法陣の中でルナからログアウトすると、次にログインした時は家ではなく、魔法陣からルナを始められるらしい。そんな仕様があったとは知らなかった。
「お兄さん初心者っすか? よかったらオレがいろいろ教えますよ! その代わり、パーティ組んでくれないすか? 接近戦をこなしてくれたらオレは戦いやすくなるし、お兄さんは情報聞けるし、ウィンウィンじゃないっすか!?」
 パーティを組んで一緒に旅をしようってことか。そういえば、リョウも憧れの剣士ルイとパーティを組んで、一緒に旅に出て行ったんだった。一人で右往左往するよりは、詳しい人と動く方が効率的ではある。テンションが合わないことを除けば、悪くは無い話だ。
「分かった、パーティを組もう。俺も仲間がいた方が助かるし。だけど、ちょっと待っててくれるか? 昨日からずっとルナにいるから、いったん帰って飯食ってきたいんだ」
「お兄さんも飯食ってないんすか? それなら、一緒に食いましょうよ! オレも腹ペコだし」
「いや、こっちでは飯はさっき食った。現実世界の俺が昨日の朝から水一滴飲んでないから、一度帰りたいんだ」
「え、だから一緒に食えば……」
 話が通じない。こっちでいくら食っても栄養にならないだろう。コージが頭を悩ませていると、青年は合点がいったという感じで頷いた。
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