パーティ結成 -2-

文字数 1,223文字

 目を見開いたコージの反応を楽しむかのように、くっくと笑って又五郎は続ける。
『垣根を出てすぐがハンダ荒地、その北にアラハド草原、さらにずっと北にアマト鉱山って場所がある。アマト鉱山には俺達なんかじゃ相手にならねえ強敵ばかりがウヨウヨしてるらしい。そいつらは陽の光が苦手で日中はじっとしてるが、夜は山から出てきて街の方に寄って来るんだ。一日じゃ山から街にまでは来れねえが、アラハド草原の手前位まで降りてきちまう奴もいる。ほっとけばいずれは街まで来ちまうかもしれねえからな。平八の旦那は夜にアラハド草原まで行って強敵を片付けてるのさ』
「それを、毎日?」
 肯定の返事が返ってきた。孤軍奮闘とは、まさに平八のためにあるような言葉だとコージは思った。毎晩荒地の先の草原まで行って、山から下りてきた強敵を葬っているなんて。先程水を渡してくれた平八は、全く疲れた様子を見せなかった。
『そんな旦那が自分から声をかけたんだ。期待されてるってことさ』
「そう……なんですかね」
 去っていった平八の後姿を思い起こして、おやと思った。
「平八さん、数珠みたいなものをかけてませんでした? それに、大きい鎧を着ていなかったような……?」
 肩から斜めに、大きな数珠をかけていたような気がする。身に付けていた鎧も軽装に近いものだったし、戦いから戻ったにしては、違和感があった。
『ああ……。あの数珠は、殺した相手を弔うためなんだってよ。敵とはいえ、命を奪ったことには変わりはねえって言ってな。全く、懐の大きい旦那だよ』
 あの数珠にそんな思いが込められていたとは。コージは昨日、グリーンワームやアイバットを何匹倒しても喜ぶばかりで、弔いの気持ちなど全く持っていなかった。強さも優しさも兼ね備えていて、一体どこまで完璧な人なのだろう。
『重てえ鎧を着ねえのは、邪魔だからなんだとよ。わざわざ動きにくいモン着て戦うより、軽くして機動力を上げた方が良いってことらしい。いつだったかは肌着一枚で戦ってたな』
 そして破天荒な人だった。
『まあ、真似しねえこった。俺達が旦那の真似すんのは自殺行為だ』
「肝に銘じておきます」
『それじゃ、俺はそろそろ出かけるぜ。旦那のお陰で強敵はいねえが、数はわんさかいるからな。昼間は俺達が守らねえと。コージも気が向いたら来てくれ。また酒でも呑もうぜ』
 又五郎はコージの肩を叩いて去っていった。
 コージは質素な食事を済ませて、食堂を後にした。さて、これからどうしようか。ルナの中に居る間は睡眠状態になっているはずなのに、そのルナの中で酔いつぶれて寝るという訳の分からないことをしてしまった。ルナの中のコージは昨晩も今も腹を満たしたわけだが、現実世界では昨日の朝食を食べたきり、まる一日飲まず食わずで寝ていることになる。一日くらい食べなくても死にはしないが、水分は摂っておきたいし、粗相でもしていようものなら社会的に死んでしまう。面倒だが、一度街に戻って家に帰るべきか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み