はじめてのボス戦 -4-

文字数 1,440文字

 便利なことに、バスは水質研究所前で降ろしてくれた。クエストをこなすのに大変便利でありがたい。着いたその場所は、まさに、ザ・研究所という印象だった。広い敷地に研究棟が並び、最も大きく立派なガラス張りのビルが最奥に建っている。緑が多めな敷地の中央には噴水があり、そこから水路を流れた水が緑色の池を作っている。敷地に入る門の前のバス停で降りた二人だったが、門を通ってから建物に到着するまでの道のりがまた遠かった。空の矢印が差す場所は「水質環境研究棟」なる場所。コージ達は受付に依頼を受注した旨を伝え、依頼者のいる五階の研究室に向かった。
『こんにちは。ご依頼を受けてくださった方でしょうか?』
 研究室に着くと、白衣を着た黒縁眼鏡の男性が応対してくれた。コージ達が移動している間に受付から連絡が行っていたようで、二人の到着を待ってくれていたのだった。
「はい。私がコージで、こちらはフミトです」
「どーもっす!」
『ご丁寧にありがとうございます。僕は田内透(たうちとおる)といいます。立ち話も何ですから、どうぞこちらにお掛けください』
 田内に促されてソファーに失礼し、彼もまた座ってお互いに向かい合った。
『この度は依頼を受けていただいてありがとうございます。早速ですが、依頼についてご説明いたします。この街の北にハンダ荒地やアラハド草原がありますが、北東方向に進んで草原を抜けると、岩山に囲まれた場所にタスク湖という湖があります。その湖の水を採取して持ち帰っていただきたいのです。自分で行ければ良いのですが、僕は戦えないので、ご依頼した次第です』
 そう言うと、テーブルに細長い透明な容器を十本置いた。
『サンプリング容器です。一ヵ所だけだとサンプルとしては弱いので、お手数ですが湖の異なる十ヵ所から採取をお願いします。可能な限り、採取場所は離れていると助かります。依頼としては以上ですが、何かご質問はありますか?』
「水を汲んでくればいいってことっすよね。それは分かったんすけど、わざわざ湖の水なんて調べてどうするんすか?」
『すぐ近くにアマト鉱山という場所がありまして、昔はそこで硫黄や黄鉄鉱を採掘していました。廃坑から流れ出た汚染廃水が下流に流れてしまわないように、流れをせき止めてできたのがタスク湖というわけです。アマト鉱山は今はもう閉山していますが、廃水はいまだに流れ込んでいます。汚染水を貯め置くだけでは環境が破壊される一方なので、毒性を中和する処理をしており、定期的に確認が必要なのです』
「じゃあ、水を汲むにしても注意が必要ですね」
『はい。決して直接触れるようなことはせず、柄杓などを使ってください。まあ、薬品臭のする赤い湖の水ですから、手で掬おうとは思わないでしょうけど』
「湖の色、赤いんすか!?」
『ええ。しかも湖の底はヘドロですから、誤って落ちないようにお気を付けください』
 環境問題に関する調査依頼か。現実ともリンクしそうな話だ。正式に依頼を受け、コージ達は研究所を後にした。帰り際、百円ショップで柄杓を買ってアームヘルパーに収納しておいた。
「ついでだから、もうひとつの依頼の方も話を聞いてしまおう」
「ボス戦クエストっすね! オレ興奮しちゃいます」
 フミトには申し訳ないが、コージはまだ戦闘経験が少ないと感じていて、危険な香りがしたら断わることも視野に入れていた。少しレベルが高い仕事なら成長に繋がるが、身の丈に合わない難易度の仕事は命に関わる。実生活だろうが、仮想世界だろうが、それは変わらない。
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