イワト隠れ -18-

文字数 2,905文字

 そんなやり取りをしていた七人の周りが、淡い光の玉でいっぱいになった。人魂のようなそれは、キラキラと輝きながら天に昇っていく。
「何やこれ……。あ、あれ!」
 ミズキの視線の先。半透明な四人の姿が浮かび上がった。神官姿の壮年の男性に、その手を握る少女。落ち着いた雰囲気の女性と、その腕に抱かれる男の子。
『ありがとう』
 神官姿の男性が言った。
『ナリカンダラを倒してくれて、ありがとう。これで、私たち家族は逝くことができます』
『息子のレオの仇をとり、そして娘のマーシャを命懸けの封印の呪縛から解き放ってくれたこと、母親として、村長の妻として、感謝の言葉もありません』
『皆さんの旅路が、幸多きものでありますように。陰ながら、見守っております』
 村長一家の魂はそれぞれ光の玉となり、揃って天に昇っていった。そして、もとの色を取り戻した。
「今の……村長さんと家族やな。きっと、ようやく天国に行けたんやろ。よかったなあ」
 ミズキは手を合わせて、家族の冥福を祈った。コージとフミトも、黙祷した。
「おい。今の、どういうことだ?」
 修二たちのパーティは何がなんだか分からない様子だ。この四人は、生離姦唾螺という存在が生まれた理由も、なぜここに居たのかも知らなかったのだ。――つまり、自分たちが何をしでかしたかも知らないということだ。コージはイワト神殿に来るまでに手に入れた情報を彼らに共有した。すると、修二は心当たりがあったらしく、目に見えて気まずそうな顔をした。
「あー。なるほどね」と頭を掻いて目を反らす盗賊。
「いや、なるほどじゃ分からないんだが」と詰め寄るコージ。
「はあ。あんたが言わないなら、アタシから言うわ」
 真相はマイの口から語られることになった。
「アタシたち、それなりにレベルが高いから、強い敵が出るっていうこの神殿で腕試ししてたのよ。それなのに弱いザコ敵ばかりで拍子抜け。ここの広間を見て、何もなかったら帰ろうとしてたの。そしたら、そこのバカが、いかにも何かが封印されてますって感じの箱を蹴っちゃって。その上に置かれてたマッチ棒みたいな奴を崩しちゃったのよ。そしたら、あの化物が出てきて、防戦一方だったってわけ。最初にアタシが失声の呪いを受けて無力化されて、すぐに修二も石にされて。豪一人で戦ってくれたけど、押され気味。回復しようにも、亜香里は結界で守るのに精いっぱいで、ジリ貧だったってわけ」
 なるほど。その崩してしまったマッチ棒みたいな奴が割と重要な役割を果たしていて、それを崩してしまったから封印が解けたと。封印のことを知らない修二の軽はずみな行動で、手に負えない敵と闘う羽目になったということか。予想が全て当たっていた。
「おい! 俺一人が悪いみたいな言い方してるけどよ、お前だって蹴れ蹴れって言ってたじゃねえか!」
「ま、まさか本当に蹴ると思わなかったのよ! 実際蹴ったのはあんたでしょ!」
「自分だけ責任逃れする気かよ!」
「その辺でやめとけ。みっともない」
 コージが割って入った。
「なんだと? 低レベルパーティが、俺に意見かよ」
「恩を着せるつもりはないが、俺達が来なかったら、お前らは全滅だ。お前のそのくだらないプライドのせいで、仲間を危険な目に合わせたんだ。少しは反省しとけよ」
 レベルが高いのはいいが、自信が過信となり、分不相応な相手とやり合う羽目になったんだ。今回はどうにか切り抜けたが、そんなことを続けていたら、いつか足元を掬われる。
「けっ」
「まあ……アタシも悪かったわよ」
 修二はへそを曲げてしまったが、マイは反省しているようだ。
「つーか、バケモン退治のアイテム、お前らだけのモンになっちまったじゃねーか」
 自分に非があるのは感じているのか、修二が唐突に話を変えてきた。
「まあ、トドメを刺したのは彼らですし。それに、彼らはおれ達とパーティを組んでいたわけではないですから。生きてるだけで良しとしましょう。金と経験値は等しく入ったようだし、それで構いませんよ」
 盗賊の性か、生離姦唾螺討伐のアイテムにやたら執着する修二。逆に、豪は淡泊だ。
「どんなアイテムだろうね。巫女服だったら、着てみたいかも」
「やめときなさい、呪いの装備かもしれないわよ」
 女性陣はなかなかに独特な意見をお持ちだ。彼ら彼女らの視線(というか圧)に押される形で、得られたアイテムを呼び出した。
 コージは「タケミカ(ツチ)」という名のハンマー。
 フミトは「破邪の弓」という名の弓。
 ミズキは「太陽の杖」という名の杖。
 それぞれ、強そうな武器を手に入れていた。
「おおー、何だかすごそうな武器だねえ」
 さすがは強いボス相手の戦利品といったところか。だが――。
「ハンマーか……。俺は剣使いだから、持ってても使わないな」
 使えるのかもしれないが、武器の浮気をしようものなら、嫉妬深いルミナティソードにコージが斬り刻まれそうだ。
「ウチも別に杖使わへんから、持ってるだけになってまうんよなあ」
 ミズキはうーんと唸ること四秒。いいこと思いついた、とばかりにマイのもとに歩み寄っていく。
「あんた、魔導士やろ? よかったら貰ってくれへん? 見たところ杖使てへんかったけど、これ持って魔法使えば、なかなかの威力になると思うで」
 マイは驚いた表情で呆けていたが、はっとして首を横に振る。
「ちょ、いくらアタシでも受け取れないわよ!」
「せやけど、ウチが持っとっても宝の持ち腐れやから。マイも功労者やねんから、遠慮することあらへんで」
「でも……」
「ええから、持っとき」
 そう言ってマイに押し付けた。マイはおどおどするが、ミズキはウィンクして受け取らせた。
「……ありがと」
「どういたしまして」
 その様子を見ていたコージは、豪に問う。
「あんたも戦士だよな? 使うか?」
「いや、おれは遠慮するよ。斧の方が勝手がいいから」
 盗賊に目を向けるが、鼻を鳴らして背を向けた。
「いらねえよ。見りゃわかんだろ」
 確かに。ハンマーを振り回している盗賊など見たことも聞いたこともない。コージも使う予定は無いが、ひとまずアームヘルパーに収納しておいた。
「そういえば、修二はあいつからアイテム盗んでたよね? 何が取れたの?」
「さあな」
 別に取りはしないんだから、教えてくれてもよさそうなものを。亜香里はやれやれ、といった様子だ。
「オレがゲットしたのは弓なんで、さっそく装備しとくっす! なんか強そう」
 結局、戦利品を有効利用できたのはフミトだけだった。三人とも命があって、レベルが上がった。それでよかったと思おう。
「いろいろ大変だったけど、みんな無事でよかったなあ。これで太陽も元通りになったやろうしな」
 ミズキが扉を開けた。――暗かった。
「あれ? 暗いなあ……」
「どういうことっすか? あの蛇を退治したら、太陽の光が戻るんじゃなかったんすか?」
 誰もが混乱していた。アマツテラスが身を隠す原因となった生離姦唾螺はもういない。それならば、明るさが戻っていない理由の説明がつかない。
「鏡があった部屋に行ってみよう。何か分かるかもしれない」
 コージの意見に全員が賛同し、再びアマツテラスの間に移動した。
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