守護四天王 -2-

文字数 2,447文字

 腹を満たした一行は、ひとまず屯所に向かうことにした。草原の主に、鬼婆と、ボスを倒すうちにかなりの数のクリーチャーを倒してきた。報酬もそれなりになるはずだ。大食漢(女だが)を迎え入れたのだから、貰えるものは貰っておかねば。
 屯所二階の平八の部屋に向かうと、武器の手入れをしている彼と会うことができた。ここのところ会うことができずにいたが、相変わらず眼光鋭い。彼の前に立つだけで緊張が走るのも相変わらずだ。
『コージ殿か』
「ご無沙汰してます、平八さん」
『ここのところ、大物を退治していただいているようだな。私の耳にも入っているよ。どれ、報酬をお渡ししよう。後で確認しておいてほしい』
 話が早くて助かる。もちろんフミトにも支払われた。
『アラハド草原の主に、アマト鉱山の封印。私にですら解決できなかった大物を退治してくれた功績は大きい。どうやら、私が知らぬ間に、大きな飛躍を遂げられたようだな』
「頼もしい仲間のお陰です。現に、どちらもボスも倒したのは、このフミトです」
『ほう』
「いやいや、コージさんのサポートがあったからっす!」
『どちらの技が決定打になったかは、この際置いておこう。協力して大いなる敵を討ち破った。まこと、頼もしくなってくれた。ときに、そちらのお嬢さんは?』
「こんにちは。ミズキいいます。ウチもコージたちの仲間に入れてもろたんよ」
『それはそれは。コージ殿の部隊にはまこと美しい華がおるのだな』
「あら、お上手やなあ」
 色気より食い気のタイプなのだが、器量が良いのは事実。ミズキも満更でもなさそうだ。
『ときに、コージ殿。少々お時間を頂戴することは可能か』
 平八が佇まいをなおした。世間話はここまで、これからは真面目な話だ。彼の態度や口調がそう言っていた。
「はい、なんでしょう?」
『恐縮だが、貴殿らに使いを頼みたい』
「使い?」
『うむ。各屯所の副団長達に手紙を届けてほしいのだ』
 街の東西南北それぞれに屯所があり、今コージ達がいるのは北屯所だ。団長はひと所に留まるタイプではないらしく、いまだに姿を見たことが無い。団長の代わりに、四人の副団長が東西南北それぞれの屯所に腰を据え、街を守っている。副団長四人はその実力の高さゆえに守護四天王と呼ばれており、その中でも最強と謳われるのが、目の前にいる平八なのだ。
 平八の依頼とは、西、東、南の各屯所にいる副団長たちに手紙を届けてほしいということのようだ。
「もちろん、いいですよ」
『恩に着る。私が直接向かえればよいのだが、知っての通り夜は手ごわい敵がアマト鉱山から降りてくるのでな。ここを離れられんのだ。くれぐれも紛失したり、手紙を盗み見たりせぬように』
「中身見ちゃだめなんすか?」
『すまないが、機密情報でな。もし見てしまえば、その者の口を塞がねばならぬかもしれぬ』
「絶対見ません、死んでも見ません」
 フミトが直立姿勢になった。見るなと言われれば見たくなるものだが、盗み見る心配はなさそうだ。平八の脅しが効果覿面だったようだから。
『コージ殿なら安心して託せると思ったものでな。依頼させてもらった。かたじけないが、よろしく頼む。もちろん、達成していただいた暁には、報酬をお渡ししよう』
 コージ達の視界の右上に「ランダムクエストを受注しました!」のガイドが表示された。平八の依頼はクエストという扱いになるようだ。
『それぞれの屯所への行き方だが、街の外周に沿って走るバスがある。反時計回りに走っているから、まずは西屯所に向かい虎松(とらまつ)という者を探してもらいたい。その後は南の亀丸(かめまる)殿、東の小平次(こへいじ)殿へと届けるのがよかろう』
「そんなバスがあったんですね。気付かなかった」
『存在を知り、必要としなければ、目の前に現れてはくれぬものだ。不思議なものでな。それでは、よろしく頼む』

 北屯所を出て、バス停に向かう。街との行き来しかしたことが無かったが、他の場所にも連れて行ってくれるようだ。
「ウチ、ルナの中でバス乗るん初めてや」
「街の移動は全部徒歩だったのか? 大変じゃなかったか」
「ウチのアパート、ヴェルナ神殿のすぐ近くやねん。せやから、移動する必要なかったわ」
「そうは言うけど、お前、アマト鉱山まで行ってたじゃんか。まさかあそこまで歩いたのか!?」
「うん、ちょうど同じ方向に向かう旅人がおって、鉱山まで一緒に連れて行ってもろたんよ」
 コージもルナを始めたばかりの頃は、バスやタクシーで移動できると知らずに愚直に徒歩で移動していた。フリーパスという便利なものを貰ってからは、公共交通機関での移動に頼って楽させてもらっている。
「家の近くだからって、よく神官になろうと思ったな」
「魔導士なってバトルするのも楽しそうや思うたけど、別にバトルやなくても人助けのクエストしてたらそれなりに稼げるやん? 神殿やないと神官なれやんし、直感で神官になるって決めたんよ。転職屋でなる職業より、なんかレア感あるやろ?」
 なんというか、就職理由が自由だな。面接がある世界じゃなくてよかった。
「あ、バス来たぞ。フリーパスでパーティ全員が無料で乗れるから、何もしなくていいぞ」
 コージが最初に乗ってフリーパスを見せ、バスの長椅子に三人横並びに座る。他に乗客はなく、貸し切り状態で発車した。
「なんや、バスん中から外見えへんやん」
 そう、この世界では、バスもタクシーも外が見えないようになっているのだ。窓が全てデジタルサイネージで、真っ白な画面を映し続けているようになっている。コージ達は慣れてしまって何の疑問も抱かないようになっていたが、改めて考えるとどうも奇妙だ。
「はめ殺しになっとって、窓開けられんし。変なつくりやなあ」
 これだけの技術が詰まった仮想世界なのだから、それっぽい景色を流して街を走っているようにもできそうなものなのに。まさか、ここのプログラムだけ手抜き開発したわけでもあるまいし。
『お待たせしました、西屯所、西屯所に到着です』
 浮かんだ疑問は、運転手のアナウンスで中断されてしまった。
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