イワト隠れ -4-

文字数 2,009文字

「えげつないことすんなあ、村のやつら……」
「同意や。そりゃ巫女も化けて出るで」
 カイミルの昔語りを聞き、それぞれの思いを吐露する。他人のために命を懸けてまで必死に戦ったのに、守ろうとした相手から裏切られる。コージには他人事とは思えず、感情移入してしまいそうになるのを必死に堪えた。今問題なのは、世界が闇に包まれてしまった原因を知ること。昔話を聞いてハイ終わり、にはならない。
「アマツテラスと生離姦唾螺(なりかんだら)の話は分かりました。それで、その話と、暗くなってしまったことにどういった関係があるんです?」
(信託では”蛇の化身たる巫女が目覚め、太陽の化身は鏡の中へとその身を隠す”とありました。太陽の化身がお隠れになったのですから、太陽が覆い隠され、世界が闇に包まれてしまったということでしょう。そして、お隠れになった原因は、生離姦唾螺との力の均衡が破れ、アマツテラスが劣勢に立たされたためかと)
「でも、なぜそんなことに……。生離姦唾螺は封印されていたんでしょう?」
(ええ。アマツテラスの太陽の力は偉大で、単純な力比べであれば、封印された相手に遅れをとることなど考えられない。となれば、考えられる原因はひとつ。何者かが封印を解いてしまったとしか思えません)
 封印が解けて自由の身になってしまえば、いかにアマツテラスといえど、実体のある生離姦唾螺の方が優勢になってしまう。鏡を依り代とする太陽では、恨みが詰まった闇は照らせない。闇に染まる前に、アマツテラスは鏡の中へと避難したのだろう、とカイミルはそう言った。
「つまり、太陽はかくれんぼしてるだけで、無くなったわけじゃない……ってことっすね」
「そういうことやね。蛇と力比べしながら、毎日太陽で照らしてくれてたなんて、よっぽど強い神様なんやろな、アマツテラスは」
「そんなに強い神様が力負けするほどの蛇が出てきちまったってことだよな。全く、誰だよ、余計なことしてくれたのは……!」
 コージには思い当たることがあった。北屯所で出会った、態度と口が悪い盗賊と魔導士がいる四人組のパーティ。確か、あいつら……。
「なあ。今朝会った四人組、イワト神殿に行くって言ってなかったか?」
 その言葉で、フミト達もはっとした。
「言ってました!」
「イワト神殿はクリーチャーだらけと聞いたことがある。あいつらはクリーチャー退治が目的だったみたいだし、十中八九神殿に入ってると思う」
「やたら露出の多い芸人も誘ってたなあ。あの芸人、どこからどう見てもトラブルメーカーやで」
(なるほど。おそらく、その方々が神殿に入り、意図せず封印を解いてしまったのでしょう。我々神官はもとより、旅人ですらイワト神殿には近づこうしませんから)
 全く、迷惑なことをしてくれる。コージは思わず舌打ちしてしまった。
「自分達でケツ拭いてくれるならいいが、そんな奴らには見えなかったよな」
「見えへん見えへん」
「見えないっすね。何なら散らかすだけ散らかして、そのままほったらかして帰るタイプっす」
 三人の見解が一致した。あの四人は期待できない。誰かがどうにかしないと、この世界は真っ暗闇に包まれたままになってしまう。
(先に言っておきますが、とても危険です。鬼婆退治の比ではないくらいに)
 カイミルの声は、コージ達を案じつつ、忠告をし、それでいて信頼の気持ちが籠ったものだった。
(その上で、あなたがたにお願いしたい。どうか、アマツテラスを救い、世界に光を取り戻していただきたい)
 三人は頷き合った。答えは決まっていた。
「もちろんです。俺はこの世界が好きですから。この世界まで真っ暗にしてたまるもんか」
「本当にアイツらの仕業なら、正直言えば尻ぬぐいなんてごめんだ。だけど、ここで知らんぷりしたらアイツらと同じになっちまう。オレは、オレやコージさんたちのために行くっすよ」
「困ってる神様を助けへん神官なんて、神官やあらへんからな。ウチももちろんやるで! それに、ウチが明かり灯さな、二人はどこにも行かれへんもんなあ」
 三つの心がひとつになった。
(みなさん……ありがとうございます)
「カイミルさん、吉報を待っていてください」
 こうして、一行はイワト神殿を目指すことになった。まずは北屯所へと戻り、東屯所へ移動し、東へ向かう。屯所間の移動で使うバスが動いていないのではと懸念していたが、強力なヘッドライトの光でどこへなりとも連れて行ってくれた。
 街の外に出る前に東屯所に寄ってみたが、そちらも突然のことに騒然としていた。その場にいたタケに簡単に事情を話したところ、「ちょっと待ってな」と言って屯所内に姿を消したかと思うと、すぐに戻って来て、「受け取んな」と何かを渡してきた。
「そいつは魔除護符(まよけのごふ)さ。まあお守りだと思って持っときな。……頼んだよ」
 この日二度目のタケの見送りを受け、東屯所を発った。目の前には、東の果てのイワト神殿へ続くイワト高原が広がっていた。
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