そうだ、転職しよう -4-

文字数 1,379文字

 職業も装備も分からないことだらけだが、店に行けば情報収集できるだろう。コージもいずれは戦闘クエストを受注してみるつもりだったので、今回のクエストはコージにとっても良い経験になりそうだ。
 二人はホテルの二階に移動した。移動している間ずっとリョウの母親への愚痴を聞かされたが、まるで過去の自分を見ているようで、コージはむず痒くなった。
 ブティックや宝石屋やお土産売り場が並ぶ。ここだけ見るとホテルのショッピングエリアなのだが、この豪華なホテルに似つかわしくない店が三カ所。マリが言っていた萬屋、薬屋、転職屋だ。一番手前にあるのが転職屋で、「転職屋ちぇんじ」と書かれた木の板が壁に打ち付けられている。入口に紫の布がクロスオーバースタイルで掛けられ、さながら占いの館に見えなくもない。
 中を覗くと先客がいたようで、コージと似たようなラフな格好をした茶髪の青年がいた。ボウリング玉くらいの巨大な水晶玉が台に置かれており、その向こうには深いフードを被った何者かが水晶玉に両手をかざしている。これでは本当に占いだ。
『何だよ、入らないのか?』
 リョウが急かしてくるが、店内はそう広くもないようだったから、先客が出てくるまで待機することにした。ものの数分で青年の用は済んだらしく、意気揚々と店から出てきた。
「よし! これでもっと稼ぐぞ~!」
 青年はハイテンションかまいたちとなってホテルの廊下を駆けて行った。しばし呆然としていたコージ達だったが、ハッとして視線を交わして苦笑いした。二人は揃って中に歩を進めた。
『あら、今日はお客さんが続くわねえ』
 フードの中から女性口調の男の声が聞こえた。フードを脱ぐと、明らかにカツラと分かる金髪ショートボブで、バッチリ厚化粧を決めた青髭の、胸板ありまくりのゴリマッチョが現れた。コージの後ろから『ゲッ』という声が聞こえたので、足を踏んでおいた。決してゴリマッチョの圧にやられたわけではない。
『そんな所に突っ立っていないで、お入りなさいな』
 彼もしくは彼女に勧められるがままに、コージ達は推奨前の椅子に着席した。
『いらっしゃい。アタシは転職屋ちぇんじのママ、サチコよ! よろしくねん』
 両手を合わせて可愛いポーズをするのだが、恐怖という感情が湧くのはなぜなのか。
『それで? 転職したいのはあなたかしら? それとも、そっちの僕ちゃん?』
 目線を向けられただけでリョウは背筋が良くなった。あわあわしていて会話にならなそうだ。一人で来ていたらどうなっていたのだろうか。付き添いが必要と判断したマリの考えは正解だったようだ。
「転職したいのはこの子です。ただ、俺もこの子も分からないことだらけで。良ければ転職について教えてもらえませんか? 職業を持ったら旅に出るので、心構えなんかも聞きたいです」
 それを聞いたリョウがコージを突いて耳打ちする。
『え、ちょっと。あんたも転職したこと無かったのかよ?』
「無いよ。だから聞いたんだ」
『てっきりベテランかと思ったのに……。何も知らないくせに、なんで依頼受けたんだよ』
「悪かったな。じゃあ、今からでも一人で全部準備するか? 俺は今ここで退席してもいいぞ」
 リョウがコージの腕を掴んで首を振る。それを見たサチコが両腕を抱いてくねくねする。
『まあ可愛い! アタシ、萌えちゃうわ!』
 腕を掴む力が強くなった。痛い。
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