神官を追って -5-
文字数 1,769文字
――――――――― フミトSIDE ―――――――――
「ヤバいヤバいヤバい!」
レバーは壊れるわ(壊したのはフミト本人だが)、コージとはぐれるわ、おまけに道が蛇行したり上下したりしているせいで、トロッコがジェットコースターのような動きをする。この状況で平常心を保てという方が無理だ。さらに悪いことに、広くなった坑道の天井に張り付いたアイバットが火球を放って攻撃してきている。トロッコのスピードが出ているせいで当たることはないが、こんなドッキリポイントは求めていない。「クリーチャーが現れた!」のガイドが出っぱなしだ。
一直線になった坑道をそのままのスピードで走り抜ける。そして、また「クリーチャーが現れた!」の表示。またアイバットかと思ったがそうではなく、なんと地面から何者かが現れた。ブラウンワームというらしいそのクリーチャーは、なんとレールの上にいる。RPGゲームのように、戦闘の時だけトロッコが止まってくれるような優しい仕様なわけもなく。
「ぶ、ぶ、ぶつかる!」
『ンガ』
容赦なく敵を跳ね飛ばし、戦闘に勝利してしまった。「フミトは経験値を350手に入れた!」「フミトは400円手に入れた!」と表示された。
「そんなんいいから止めてくれー!」
戦闘(?)に勝利したことより、突然目の前に現れて轢き殺してしまうという状況が心臓に悪すぎて、なにも嬉しくないフミトだった。こんなことを数回繰り返した後、開けた場所に出た。そこは終点のようで、レールが途切れている。その先は壁だ。
「と、止まってくれー!」
フミトの願いが通じたのか、ブラウンワームが大量に、しかもご丁寧にレールの上に一直線に登場してくれた。ドカンドカンと跳ね飛ばすうちに徐々に速度が下がり、最後の一匹が壁との間に挟まって緩衝材代わりになってくれたお陰で、壁に正面衝突することなく無事にトロッコが止まってくれた。フミトの胸は早鐘を打ち、冷汗をかきまくっていた。
「死ぬかと思った……」
よろよろとトロッコから降りると、ぺたんと座り込んでしまった。寿命が縮まる思いだった。遊園地に行っても、もうジェットコースターは乗れないかもしれない。
「……っと、そんなことより。ここどこだ?」
つるはしが放り出されているところを見ると、ここは採掘場所だったのだろう。明かりが弱くて全体が見通せないが、この先に道は続いていなさそうだ。コージと離れてから走った坑道は一本道だったし、合流するためにはコージと別れた分岐まで戻らないといけない。
「くそ、時間かかりそうだな」
ぼやいていても仕方がない、戻ろう。踵を返したフミトの耳に、何かが聞こえてきた。タッ、タッ、とリズミカルな音と、幼さの残る女の声。
『きゅ、きゅ』
まさか口裂けレディか、と思いながら警戒して目を凝らすと、そこにいたのは口裂けレディではなかった。制服姿の小柄な女子高生がぴょんぴょん跳ねていた。それはそれで不気味ではあるが、口裂け女に比べたら百倍ましだ。
『きゅ、きゅ』
フミトが近寄っても意に介さず、ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねている。
「何してんだ?」
『きゅ、きゅ』
声をかけても全く止める様子がない。ただ、変化はあった。上を指さしている。その指が示す方を見やると、岩の出っ張りに引っかかった学生鞄があった。どうやら、あれを取りたいらしい。しかし、彼女の身長ではジャンプしたところで到底届かないだろう高さにそれはあった。フミトならジャンプすればなんとか届くかもしれない。
「どいてみ。オレが取ってやっから」
制服女子をどかして、彼女がいた位置に立つ。一度しゃがんで準備姿勢になると、勢いをつけて思い切りジャンプした。惜しくも掴み損ねたフミトは、着地しようとして、真っ暗闇に落ちて行った。ジャンプする前まで地面だった場所に、大きな穴が空いていた。
「うわああああ――」
フミトが落ちて行った穴に、制服女子はマンホールの蓋のようなずっしりとした板を嵌めた。フミトがジャンプした場所には穴が空いており、蓋がされていた。彼女はその蓋の上でジャンプしていたのだ。フミトが彼女に代わってジャンプしたタイミングを見計らって、さっと蓋を外し、フミトが落ちるとまた蓋をしたのだ。蓋の上に乗ると、彼女はまた跳ねだした。
『十 、十 』
嬉しそうに呟く彼女の声だけが残った。
「ヤバいヤバいヤバい!」
レバーは壊れるわ(壊したのはフミト本人だが)、コージとはぐれるわ、おまけに道が蛇行したり上下したりしているせいで、トロッコがジェットコースターのような動きをする。この状況で平常心を保てという方が無理だ。さらに悪いことに、広くなった坑道の天井に張り付いたアイバットが火球を放って攻撃してきている。トロッコのスピードが出ているせいで当たることはないが、こんなドッキリポイントは求めていない。「クリーチャーが現れた!」のガイドが出っぱなしだ。
一直線になった坑道をそのままのスピードで走り抜ける。そして、また「クリーチャーが現れた!」の表示。またアイバットかと思ったがそうではなく、なんと地面から何者かが現れた。ブラウンワームというらしいそのクリーチャーは、なんとレールの上にいる。RPGゲームのように、戦闘の時だけトロッコが止まってくれるような優しい仕様なわけもなく。
「ぶ、ぶ、ぶつかる!」
『ンガ』
容赦なく敵を跳ね飛ばし、戦闘に勝利してしまった。「フミトは経験値を350手に入れた!」「フミトは400円手に入れた!」と表示された。
「そんなんいいから止めてくれー!」
戦闘(?)に勝利したことより、突然目の前に現れて轢き殺してしまうという状況が心臓に悪すぎて、なにも嬉しくないフミトだった。こんなことを数回繰り返した後、開けた場所に出た。そこは終点のようで、レールが途切れている。その先は壁だ。
「と、止まってくれー!」
フミトの願いが通じたのか、ブラウンワームが大量に、しかもご丁寧にレールの上に一直線に登場してくれた。ドカンドカンと跳ね飛ばすうちに徐々に速度が下がり、最後の一匹が壁との間に挟まって緩衝材代わりになってくれたお陰で、壁に正面衝突することなく無事にトロッコが止まってくれた。フミトの胸は早鐘を打ち、冷汗をかきまくっていた。
「死ぬかと思った……」
よろよろとトロッコから降りると、ぺたんと座り込んでしまった。寿命が縮まる思いだった。遊園地に行っても、もうジェットコースターは乗れないかもしれない。
「……っと、そんなことより。ここどこだ?」
つるはしが放り出されているところを見ると、ここは採掘場所だったのだろう。明かりが弱くて全体が見通せないが、この先に道は続いていなさそうだ。コージと離れてから走った坑道は一本道だったし、合流するためにはコージと別れた分岐まで戻らないといけない。
「くそ、時間かかりそうだな」
ぼやいていても仕方がない、戻ろう。踵を返したフミトの耳に、何かが聞こえてきた。タッ、タッ、とリズミカルな音と、幼さの残る女の声。
『きゅ、きゅ』
まさか口裂けレディか、と思いながら警戒して目を凝らすと、そこにいたのは口裂けレディではなかった。制服姿の小柄な女子高生がぴょんぴょん跳ねていた。それはそれで不気味ではあるが、口裂け女に比べたら百倍ましだ。
『きゅ、きゅ』
フミトが近寄っても意に介さず、ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねている。
「何してんだ?」
『きゅ、きゅ』
声をかけても全く止める様子がない。ただ、変化はあった。上を指さしている。その指が示す方を見やると、岩の出っ張りに引っかかった学生鞄があった。どうやら、あれを取りたいらしい。しかし、彼女の身長ではジャンプしたところで到底届かないだろう高さにそれはあった。フミトならジャンプすればなんとか届くかもしれない。
「どいてみ。オレが取ってやっから」
制服女子をどかして、彼女がいた位置に立つ。一度しゃがんで準備姿勢になると、勢いをつけて思い切りジャンプした。惜しくも掴み損ねたフミトは、着地しようとして、真っ暗闇に落ちて行った。ジャンプする前まで地面だった場所に、大きな穴が空いていた。
「うわああああ――」
フミトが落ちて行った穴に、制服女子はマンホールの蓋のようなずっしりとした板を嵌めた。フミトがジャンプした場所には穴が空いており、蓋がされていた。彼女はその蓋の上でジャンプしていたのだ。フミトが彼女に代わってジャンプしたタイミングを見計らって、さっと蓋を外し、フミトが落ちるとまた蓋をしたのだ。蓋の上に乗ると、彼女はまた跳ねだした。
『
嬉しそうに呟く彼女の声だけが残った。