守護四天王 -1-

文字数 2,695文字

「よく食うな、お前……」
 ミズキをパーティに迎えた翌日、歓迎会を兼ねて街のホテルビュッフェに訪れた三人。ミズキは細身の体型に似合わずの大食漢(女だが)で、テーブルの半分以上がミズキの皿で占められている。それも、それぞれの皿には和洋中の逸品がこんもりと盛られている。コージ達の倍速以上のスピードで食べ進める、質より量を体現したような彼女の食べっぷりを見たフミトの驚きと呆れが混じったような感想が先の発言である。
「どんだけ食べても同額やねんもん、食べなきゃ損やん」
 持って(盛って)きた皿の料理を全て平らげると、ミズキは二週目とばかりにライブクッキングコーナーに向かっていった。ホール担当の女性がミズキの皿を片してくれたが、空いた場所はすぐにミズキの新たな皿で塞がっていった。
「ここ、美味しいなあ。連れて来てくれてありがとうな」
 隣のテーブルからの視線が少し痛いが、幸せそうに食べている本人は全く気にしていないようだ。まあ、変に遠慮したり、男の目を気にして小食のふりをしたり、映えを気にして食が二の次になったりするよりはよっぽど良い。
『ランチタイム特別メニューを提供いたしまーす。数量限定ですので、お早めにお並びくださーい!』
 ここで限定メニューのお知らせ。
「限定メニューやて! 早よ並ばな」
 そう言って席を立とうとしたミズキを、フミトが制する。
「オレが取って来てやるよ。お前は食っとけ」
「え、そんなん悪いやん。それに、フミトも限定メニュー食べたいやろ?」
「オレはあとはデザート食って終わりにするから、特別メニューはいらねえよ。いいから待っとけ」
 そう言って列の最後尾に向かっていった。
「俺もデザート食って終わりにするつもりだから特別メニューは食わないけど、俺の分も食うか? 食うなら持ってくるぞ」
「ほんま!? 嬉しい!」
 まだ食えるらしいので、コージもフミトと一緒に列に並ぶ。あっという間に行列ができてしまって、のんびりしていたらすぐに用意された分がなくなってしまいそうな勢いだった。二人は早めに並んだので問題無く受け取ることができ、ミズキのもとに持っていくことができた。
「ほらよ。鯛茶漬けだってさ」
「腹が膨れそうだけど、二杯いけるか?」
 特別メニューといえば聞こえはいいが、ここにきての茶漬けは、これ以上食えないように満腹にさせにきている。しかもビュッフェ用の少な目サイズではなく、普通に一杯分の量がある。全メニュー制覇しそうな量を胃袋に収めてきたのに、大丈夫かと心配になった二人なのだが。一杯目をあっさり食べきったミズキはにっこりして言う。
「余裕やて! さっぱりして、これまで食べた分がリセットされた感じするわ」
 コージから受け取った茶漬けも平らげ、自分で持ってきた皿も平らげ。
「ほんなら、しょっぱいもんは次で最後にして、その後デザートいこか!」
 三週目に出かけていった。残された男二人は、苦笑し合うしかなかった。今後は食費がかなりかかりそうだ。ミズキはデザートも大量に盛って帰って来たかと思うと、幸せそうな顔をして口に運んで行った。見栄え良く綺麗に並べられたスイーツたちがごっそり持っていかれて、冬の落葉樹のような切ない状態になっていた。料理を並べる係の人たちが尋常ではなく慌ただしそうだったので、心の中で謝っておいた。もう大皿ごと渡してくれた方が、お互い世話が無いんじゃなかろうか。
「はあ、美味しかったなあ」
「お前の食いっぷりみてるだけで、オレは腹が膨れたぜ」
「連れてきたのがビュッフェでよかったよ。これが普通の店だったら、いくらになったか」
「さすがリーダーやなあ」
「リーダー?」
「違うん? コージとフミト、どっちか言うたらコージがリーダーぽい思うたんやけど」
「なんか気になる言い方だけど、もちろんコージさんだよ。オレにリーダー務まると思うか?」
「思わへん」
「即答されるとムカつくな……」
「みんな対等でいいんじゃないか? わざわざ俺をリーダーにしなくても」
 リーダーなどという自覚は全く無かったのだが、二人の中ではコージがリーダーになっているらしい。人の上に立てるような人間だとは思えず、そう伝えてみたのだが。
「立場は対等でも、いざっていうときに決めてくれるリーダーは必要っすよ! オレはコージさん推します!」
「ウチも同意や。みんなバラバラの方を向いとったら、まとまるモンもまとまらへん。入れてもらったばかりのウチが仕切るのもおこがましいし、コージにリーダーしてもらいたいわ」
 そう言われてしまったら断ることもできず。
「……わかった。俺がリーダーさせてもらうことにする。けど、あくまでも形式上だ。別に俺は二人を縛るつもりはないから、窮屈な思いをするようなら言ってくれ」
「さすがコージさん! 理想の上司っす!」
「リーダー就任おめでとうなあ」
 二人して大げさに拍手してくる。食後のティータイム中だった周りの客たちが何事かとこちらを見てくる。恥ずかしい。ミズキの歓迎が目的の食事会なのに、これではどちらが主役か分かったもんじゃない。と、そこへ近づくホール係がひとり。
『あの、よろしければ、これをどうぞ』
 そう言ってテーブルに置いたのは、ロウソクが刺さったケーキ。しかも、そこそこ大きいホールケーキ。
「えっと、これは?」
『お客様、お誕生日ですよね? 先ほど、お祝いされているのを目にしたもので。ささやかですが、当店からのサービスでございます』
 盛大な勘違いをされている。フミト達が大げさに騒いだせいで、誕生パーティだと思われたらしい。普通なら、それなりの料金を取られても仕方ないサービスをプレゼントしてくれるのは大変ありがたい話なのだが。さんざん食った後の休憩中に出されるホールケーキは、さすがに殺しにしきてる。ホール係のおもてなしを無下にもできず、さらにはホール係と一緒に周りの客たちもハッピーバースデーを歌いだしてしまって、断るに断れない。
「……どうするよ、これ」
「オレはもう入んないっす……」
「俺だって同じだよ……」
 途方に暮れる男二人に対して、頼もしかったのは新メンバーミズキ。
「なんや、二人とも食べへんの? ほんなら、ウチもらうで」
 カットすらせず、ホールのケーキにフォークを差してがつがつ食べ始めた。そして、あっという間になくなった。周りのテーブルから拍手があがった。
「信じられねえ……」
「頼もしい仲間が増えたな……」
 これからは毎日ビュッフェに来ないとミズキの食欲は満たせないかもしれない。予算に頭を悩ませるのもリーダーの役目と思って、考えるしかないな。そう思うコージであった。
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