守護四天王 -6-

文字数 1,110文字

 翌朝。起床したコージ達一行は、恐る恐る食堂の戸を開いてみた。昨日の一件など無かったかのように、元通りになっていた。天井や床の血の染みも消えていた。
『やあ、おはよう』
 虎松が先に食事をしていた。
「おはよう」
「おはよっす」
「おはよう、起きるん早いなあ」
『ああ、この後出かけないといけなくてね。君たちはゆっくり食事していきなよ』
 一行は昨日と同じ場所に座った。ほどなくして、食堂のおばちゃんが朝食を運んできてくれた。厚焼き玉子に脂ののった焼鮭、冷奴に切り干し大根の煮物もある。温かいご飯も大根の味噌汁もおばちゃんの愛情がたっぷり込められているのが分かる。
『昨日は嫌な事があったらしいけど、気分を落とさないでね。少しでもいいから、食べて行ってちょうだいね』
「心配してくれてありがとうなあ。しっかりいただいていくから、安心してや」
「お前はちょっと遠慮しろっての」
『何だか夫婦みたいだね、あなた達』
 おばちゃんは笑いながら去っていった。
『さてと。それじゃあ、僕はそろそろ行こうかな。またね』
 虎松は席を立った。去り際こそ笑顔を向けていたが、背を向けた瞬間にコージと闘ったときと同じ殺気を纏った。
「ごちそうさま」
「ミズキ食うの早っ!」
「二人とも遅いで。もてなしてもろたんやから、見送りくらいせんと」
 おかわりしない代わりに爆速で食べ終わったミズキが駆けていく。対して男たちは半分も食べていない。慌ててかき込んで無理やり飲み込み、後を追った。
 稽古部屋は朝から訓練に励む団員たちでいっぱいだった。昨晩、虎松から叱責された団員もそこにいた。
「ここにいたら邪魔になるで。外に出て待とうや」
 ミズキに同意し、派手な旗が並ぶ外へと出た。赤い鎧を纏った団員たちが、馬を並べて待機していた。
「虎松も赤い鎧だったよな」
「鎧どころか、兜も槍も全部真っ赤だったっすよ。大将が目立つのはまだいいとして、部下まで同じ色なんすね」
『その方が団結力が上がるからね』
 いつの間にか背後に居た虎松が答えてくれた。この二日で何度も背後を取られたが、何度目であっても慣れない。声をかけられると心臓が跳ねる思いをする。
『お見送りありがとう。機会があったら、また来てよ。じゃあね』
 抱えていた角付きの赤兜をかぶり、馬に跨る。部下たちも倣う。西屯所の精鋭たちは、虎松を先頭に馬を走らせていった。目立つ装いの彼らだが、逆に言えばそれは自信の表れであり、武勇に秀でた部隊であると印象付けられる。お陰で無用な戦いを避けることができる。
 赤い装備と角の生えた兜という姿で先陣を切って長槍を振り回す虎松のことを、敵味方問わずに”赤鬼”と呼び、その強さに尊敬しつつも恐れているのだった。

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