イワト隠れ -11-

文字数 2,943文字

 日記はそこで終わっていた。今の状況を考えれば、おそらく封印には成功したのだろう。そして、今までの間、封印は破られること無く保たれてきた。だが、事情をしらない例の五人組がやらかしてしまい、封印が解けてしまったということだ。
「なあ……。あの五人、どうなったんやろ?」
 ミズキがはっとして言う。封印を解いてしまったのだから、当然、ナリカンダラと遭遇したはず。レベル30を超える強者ばかりだが、間違いなくナリカンダラを討ててはいない。もし倒せたのならば、今だに世界が暗闇に包まれている理由が説明できない。
「ぶっちゃけ、奴らはどうでもいい……って言いたいとこだが、ついでになら助けてやってもいいんじゃね? 死んでなきゃな」
 つっけんどんにフミトが答える。一度は選択を間違えたが、最後には世界を守る選択をした村長。フミトはその意思を尊重し、”後始末”を引き受けるつもりだ。
「ナリカンダラの弱点でも書いてくれてれば、一番よかったんだが」
「ほんまやね。ここにある本を全部読んでも、そんなもんは書いてないやろね。本に弱点が書いてあるなら、娘を生贄にして封印するより、弱点を狙って退治しようと思うやろし。ウチらは全力でぶつかるだけやね。倒せないまでも、なんとか弱らせることができたら、アマツテラスが力を貸してくれるかもしれへん」
「じゃあ、急いで向かうことにするか」
「了解っす!」
「了解や!」
 村長一家の思いを受け取り、一行は神殿を目指した。

 イワト神殿に到着した。人の手で管理がされなくなった建物はツタが纏わりつき、壁には亀裂が入っている。ミズキの照らす光で見える範囲しか見えないというのに、全体的に傷んでいるであろうことが想像できる。明るい日中で見たとしても、恐怖感を与えることだろう。
「心の準備はいいか?」
 コージの呼びかけに、二人同時に頷く。コージも頷き返すと、両開きの扉を開け放った。
 室内の壁に設置された蝋燭には火が灯され、中を怪しげに照らしていた。柱や石像が規則的に並ぶそこは、広い美術館のホールのようだった。人の気配はしない。閉じた空間ではなく、広間の奥から逆U字の通路が続いている。
「思ったより広いな」
「ダンジョンって感じっすね」
「神殿がダンジョンやなんて、世も末やなあ」
「世界が闇に包まれた時点で、既に終末の雰囲気が漂ってるけどな」
「そんじゃ、オレらが終末を食い止めないとっすね」
「ウチも戦えるようになったし、足手まといにはならへんで。中は蝋燭で明るいし、そろそろライト消すで」
 ミズキは光を消した。ミズキの光に比べたら心許ないが、蝋燭の明かりでも視界は充分だ。三人は奥へと進んだ。
 中はアイバットだらけだった。だが、もはや三人にとってはうるさい蚊程度の存在だった。フミトの矢、コージの衝光波、そしてミズキの魔法の矢。全員が遠距離攻撃できる三人は、ただ打ちまくるだけでどんどん始末していった。
 長い通路を進んでいくと、開けた空間に出た。とんでもなく巨大な試験管を逆さにしたようなその空間の天井はやたら高く、赤い絨毯が床全体に敷かれている。上から降ってきたアイバットを退治するのに衝光波を放ったときの明かりで、天井が球状になっていて、てっぺんがガラス張りであるのが分かった。外が明るければ、てっぺんのガラス越しに陽が差し、それはそれは神々しい空間になるのだろう。今は神々しいどころか、クリーチャーの巣窟になってしまっている。
 そして、またクリーチャーの影が忍び寄る。「クリーチャーが現れた!」の表示とともに、ゾンビワームが二体飛び出してきた。
「今度は毒に気をつけろよ!」
「分かってますって!」
 コージとフミトが別々の敵に向かい合った。ミズキも魔法の吹き矢を構えて臨戦態勢だ。

 ― 衝光波 ―
 ― 氷縛の矢 ―

 先手必勝とばかりに、同時に攻撃を仕掛ける。コージの衝光波を受けた敵は呻き声をあげながら消えていった。一方、氷縛の矢を受けた敵は、頭が凍り付いたものの、倒すには至らなかった。
「ミズキ!」
「任せてや!」
 ただでさえ鈍足な敵の動きを封じた今、ミズキの矢の格好の的だった。雷が駆け巡ったあと、黒炭になった敵は声すらあげられずに消えていった。戦闘に勝利した。コージとミズキのアームヘルパーに、アイテム「解呪薬」が吸い込まれていった。
「フミト、ごめん。アイテム、ウチのになってしもた」
「構わねえよ。どういうアイテムだったんだ?」
「ちょい待ち、ええと……。解呪薬いうて、失声の呪いを回復してくれるんやて! 失声状態になると、文字通り喋れんくなるから、魔導士や神官には助かる道具やで」
「呪いなら、神官の得意分野じゃねえの?」
「そうなんやけど、ウチはまだレベルが低うて……。いや、ちょい待ち」
 自分のアームヘルパーを操作して、プロフィールを確認したミズキは、ニコリ。
「失声の呪い、解けるようになったで! レベルが上がって、新しい呪文覚えとった!」
 ここにきて、ミズキがパワーアップ。コージ達も念のために確認してみると。
「俺は変化なしだな。レベルが変わってない」
「オレはレベル上がってます! 新しい技も覚えてる!」
 フミトもパワーアップだ。コージ一人だけが成長していないのは、物悲しい。フミトも大喜び……かと思えば、実に渋い顔をしている。
「フミト、どうした? 微妙な顔してるけど」
「だって、新しい技が微妙なんすもん……。これ、見てくださいよ」

――――――――――――――――――――
陽炎(かげろう)
自分の残像を残して姿をくらまし、敵を惑わ
す技
――――――――――――――――――――

「カッコいい弓技を覚えたのかと思ったのに……期待外れっすよ」
「敵の攻撃を躱すのに使えそうだけどな」
「逃げ隠れすんのは、オレの性分じゃねえっす!」
「そんなら、攻撃するときに使うたらええやん? 本物と残像で攻撃力倍になったりせえへんかな」
「なるか! 別に身体が分裂するわけじゃねーんだから」
「ま、まあ……なんかで役に立つさ」
 肩を落とすフミトを微妙にフォローしきれなかったが、パワーアップしたということで納得してくれ。
「さて。どの通路を進もうか」
 左、前、右。自分たちが通ってきた通路を背にして、進める道は三つある。西から進んで来たから、北(左)、東(前)、南(右)のどの方角に進むかだ。
「選択ミスってここに戻っても、どこを通ったか迷ってしまいそうな造りやな……」
 ミズキの言う通り、完全なシンメトリーになっている空間の中は、方向感覚を失ってしまいそうだった。
「右か左から進んで、仮に戻るハメになったら、すぐ隣を進むことにしよう。右の通路に進んで、ハズレで、またここに戻ったら、必ず右隣の通路を進む。左の通路に行くなら、ここに戻った後は逆に左隣の通路を進む。そうやってルールを決めれば、なんとか迷わないで済む」
「なるほどなあ。ウチは構わへんで。あとは、右から進むか左から進むか決めるだけやな」
「じゃあ、多数決でいくか」
 それぞれ右か左のどちらに進みたいかを同時に言い、その結果、右に進むことになった。ちなみに、コージとフミトが右、ミズキは左と言った。
「じゃあ、ミズキには申し訳ないけど、右から進もう」
「オッケーやで」
「了解っす」
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