再スタート -2-

文字数 1,556文字

 待合所のセーブポイントに到着した。フミトが待合所で又五郎と談笑しているところだった。談笑というより、又五郎が徳利片手に赤ら顔で絡んでいるだけにも見える。予想は当たっていたようで、コージが歩み寄るとフミトは急いで脱出し、「行きましょ!」と言ってそそくさと外に出て行ってしまった。
「何だあ、今から退治か。怪我すんじゃねえぞ」
 コージに片手を挙げると、又五郎は千鳥足で食堂に向かって行った。普段は茶漬けで済まして寝ると言っていたのは何だったのかと思いながら、コージもフミトに続くのだった。
「コージさんが来るまで、ずっと管を巻かれてましたよ。最初は食堂で待ってたけど、でかい声で絡んできたから待合所まで逃げたんすよ。そしたらそっちまで追いかけてきてあの調子っすもん」
「待たせて悪かったな。悪い人ではなさそうだけど、たぶん酒が入ると……な」
「昔危険な目に遭った時にどうしたとか、一番でかい獲物は何だったとか、同じ話の繰り返しなんすよ。最後には、いつ死んでも良いように、後悔はしない生き方しろよって」
 仮想空間のNPCの話とはいえ、普段から命懸けで戦っているからこその言葉だ。平八のように倒した相手の冥福を祈るほどの余裕はないはず。素面では命懸けで街を守る戦士だが、酔っている間は心の奥底にある恐怖や不安が出てきてしまうのだろう。他人に聞かせているようで、実は自分に言い聞かせているのだ。自分の弱さをさらけ出しつつも、他人を思いやる気持ちも持っている。そうでなければ、別れ際に相手の怪我の心配などできるはずがない。フミトにもそれは伝わっているようだった。だからこそ、悪態をついたり避けたりせず、コージが来るまで付き合っていたのだ。
「父親ってああいう感じなんすかね」
「え?」
「ああ、何でもないっす! どのあたりまで行きます? と言っても、コージさんは明日も仕事だろうし、あんまり遠くまで行けないっすよね」
「そうだなあ。今夜はひとまず荒野を様子見するのはどうだ? 顔触れだけ確認して、徐々に行動範囲を広げていこう」
「了解っす!」
「そうだ。これ、渡しとくよ。回復薬! 毒消し薬! 神経剤!」
 コージがアイテムの名を言うと、アームヘルパーから光が飛び出し、コージの手のひらの上で薬となって現れた。ルミナティソードが名前を呼ぶだけで出てきたのだから、アイテムだって出てくるだろう。その予想が当たった。
「昨日薬屋に行ったときに、二人分買っといたんだ。これはフミトの分だから、遠慮なく受け取ってくれ」
「マジっすか! サンキューっす! コージさん太っ腹!」
 そう言ってコージの腹をポンと叩いた。失礼なのだが憎めない。その行動よりも、叩かれて腹が揺れたことの方に少なからず意識が持っていかれた。三十代は急激に太るというから、気を付けよう。人知れず心に汗をかきながら歩を進めるのだった。
 夜の荒野は街灯などあるはずもなく、深い闇に包まれている。明るい月のお陰で闇は和らいでいるものの、日中に比べたら遠くが全く見えなかった。それでも、しばらくすると闇に目が慣れてきた。明度と彩度が低くなった世界を、二人は歩く。
 北屯所の明かりがぎりぎり見えるかどうかというところまで進んだ頃だった。遠くに一点の光が見えた。
「あれ、仲間っすかね?」
「それにしては、変な動きをしてないか?」
 光はゆらゆらと不規則な動きをしていた。色は白色ではなく暖色、もっと言えばオレンジや赤に近かった。小さい点だったはずの光が、急激にサイズを増している。人が懐中電灯を持って近づいている感じではない。二人が怪しんだと同時に、「クリーチャーが現れた!」というガイドが表示された。光の正体は敵だった。不規則だった動きが一転し、真っすぐこちらに向かってきて、その全貌が明らかになった。
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