はじめてのボス戦 -13-

文字数 1,305文字

 ― 瞬斬剣 ―
 ― 氷縛の矢 ―

 敵は大きい頭を揺らして重心移動をし、こちらの攻撃を避けていた。頭をねらえばまた避けられると考えたコージは、敵の腰を狙って剣を振るう。真っ二つにはできないが、今度は深い傷を負わせた。同時に放たれたフミトの矢は、敵の左脚の膝に当たって、脚のほとんどが凍り付いた。
 二人は勝機を見出した。それは、同時に油断でもあった。手負いの獣ほど恐ろしい存在はないのだ。
『オオオオオオ!』
 咆哮を上げたかと思うと、ずっとぴったりとくっつけた両腕を振り上げ、自分の顔を殴った。顔の氷を砕き、自由になった顔は憎しみと怒りに歪む。手負いの身体で、敵が跳んだ。歩くでも走るでもなく、跳んだ。
「なに!?」
「うわ!?」
 近くにいるコージではなく、距離のあるフミトに向かって跳躍したのだ。鬼の形相のままフミトに飛び掛かり、両腕を押さえつけた。そして、腕に噛みついた。
「ぎゃあー!」
 フミトから食い千切った肉をむしゃむしゃと食っている。口から肉片と血が垂れている。フミトは脚をばたつかせて抵抗するが、敵は全く意に介さない。
「あ……あ……」
 フミトの抵抗が弱っていく。駆けつけたコージがキョトーオを後ろから突き刺す。
『オオオオオオ!』
 攻撃を避けもせず、その身に受けた敵は、またしても咆哮をあげた。だが、フミトからどくことはせず、それどころかまた腕に噛みついて肉を食らった。
「くそっ! フミト!!」

― 火炎剣 ―

 さらに噛みつこうとした敵を炎の刃が貫く。後頭部を通って右目から切っ先が飛び出す形で、巨大な頭を貫通した。そして、燃えた。
『オ……オオ……オオオ!』
 剣を抜いて、のたうち回る敵を蹴り飛ばし、フミトを救出する。意識はあるが、顔面蒼白だ。
「申し訳ないっす……」
「しっかりするんだ! いま、回復薬を……」
 そう言って、気付いた。持っていた回復薬は、どちらも既に使い切ってしまっていた。回復手段が無い。
「ま、だ……終わってねーっすよ」
 立膝になったフミトは、食われた腕で弓を張り、敵に狙いを付けた。
「お返しだ、くそったれ!」
 フミトもまた、手負いの獣だった。殺気を込めて放った弓は、燃える敵の額に刺さった。キョトーオはでたらめに振っていた腕をだらんとさげ、出会った時と同じ気を付けの姿勢になったかと思うと、くずおれていった。そして、焦げ跡を残し、消えて行った。「戦闘に勝利した」のガイドが流れ、取得アイテムがフミトのアームヘルパーに吸い込まれていった。
 二人は、ついに草原の主キョトーオを倒した。
「カタキ、とったぞ」
 そう呟いた直後、フミトはパタリを倒れた。
「フミト!」
 服が真っ赤に染まり、出血がひどいのが一目瞭然で分かる。口元に手を当てると、呼吸をしていない。
「お、おい……。冗談やめろよ」
 いくら揺すっても、返事は無い。
「起きろって……」
 景色が滲んでいく。これまで見せてきたフミトの顔が浮かぶ。屯所で飯を食っている顔。又五郎に絡まれて、迷惑そうにしながらも、どことなく嬉しそうな顔。敵を倒してガッツポーズしている顔。なんで、こんな時に思い出してしまうのか。そのフミトは今、コージの腕の中で、動かない。
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