守護四天王 -7-

文字数 2,361文字

 パーティは西屯所を発ち、南屯所へと向かった。虎松に脅されたせいもあるが、所有しているだけで精神的にダメージを与えてくる手紙などすぐに手放したかった。急ぐ理由はなくとも急ぐ理由はそれだ。百叩きも水責めもごめんだ。
 相変わらず景色の見えないバスに乗って屯所前まで運んでもらい、南屯所に到着した。北と西の屯所は木造の建物だったが、ここはオフィスビルのような見た目をしていた。ビルの四隅には旗がはためいている。西屯所のような派手な四神旗ではなく、無地に”無”とだけ書かれた簡素なものだった。
「こっちは何だか旗が地味っすね」
「地味でもいいよ、まともな人が出て来てくれれば」
 急に背後に立たれて、決闘の申込をしてくるような人物でなければ。
「ここの副団長さんの名前、なんて言うたっけ……。えと、か、か……?」
 そこでガラリと戸が開き。
亀丸(かめまる)。ワタシのことですよ』
 副団長ご本人が登場した。利発な雰囲気と整った容姿の壮年の男性だった。
「ごめんやでえ。名前ど忘れしてしもたんよ」
『気にしていません。自分で言うのもなんですが、西の小僧よりはまともな方だと思いますよ?』
 会話を聞かれていたらしい。西の小僧というのは、今朝まで一緒だった西屯所の虎松のことだろう。どことなく皮肉っぽい言い方だが、確執でもあるのだろうか。
『ところで、どうかされましたか? 入団希望ですか?』
 後ろ手を組んで尋ねてきた。
「実は、北屯所の平八さんから頼まれて手紙を届けに来ました」
 コージが手紙を取り出して差し出す。
『ほう、平八さんから。これはこれは、わざわざありがとうございます』
 受け取ると、亀丸はすぐに開封して確認を始めた。
「ちょ! オレら見たらまずいんすよね!? オレらいないところで読んでくださいよ!」
『だって、もし細工してあったりすり替えたりしてあったりした場合、あなたたちを捕えないといけませんから。目の前で確認させていただきますよ。見ないようにして待っててください』
 コージ達を帰してから中身を見れば、手紙の内容を見られずに済むが、偽の手紙だったり加筆修正されたりしていたら、気づいても逃げられてしまう。だから帰す前に読む。その理屈は分かるのだが。
「だからって、別に目の前で読む必要ねーじゃんか」
 フミトの言う通りなのである。客間にでも通して、離れたところから読んでくれたら良いだけの話だ。
『客間はいま先客がいましてね。失礼なのは承知していますが、いったんはここで勘弁してください』
「いや、別に客間じゃなくてもいいっすけど、離れてくれって話で……」
『確認できました。あなた方が預かったそのままの状態で届けてくれたということも分かりました。感謝します』
 フミトの珍しくまともな意見が遮られたが、亀丸からの合格をもらえた。
『もう少しで来客対応が終わるので、少し待っていただけますか? 少しばかりですが御礼がしたいのと、平八さんへお返事の手紙を用意するので、平八さんに届けていただけないかと思いましてね』
「また手紙か……」
 命に関わる手紙はこれ以上預かりたくない。そんなコージの思いを察したのか、破顔して言ってきた。
『ああ、大丈夫ですよ。この手紙は紛失しようが開封されようが問題ありません。秘密が漏れそうになったら勝手に爆発しますから』
「どういう原理だ」とコージ。
『そういう術をかけておくんです。これでもワタシは魔術の心得がありますから』
「魔術!? あんた魔法使えるのか!?」とフミト。
『ええ。いちおう刀も使いますけど、本職は黒魔導士なんですよ』
 黒魔導士――攻撃魔法を習熟した者がなれる上位職だと、転職屋のサチコが言っていた。
「すごい……」
 コージの本音が漏れた。
『いえいえ。それなりの年数を戦いに費やしていれば、ワタシくらいには簡単になれますよ。では、お手数ですが食堂でお待ちください。隣の棟がまるまる食堂になってますから。では、失礼』
 亀丸は屯所へと戻っていった。棟とは言ったが、隣に見えるのは食堂というよりオープンテラス付きの一軒家カフェといった感じだ。
「黒魔導士かあ。すごいんやなあ、あの人」
「依頼を受けて、少年を魔導士に転職させてやったことはあったけど、熟練者に会うのは初めてだな」
 コージが戦士になる前、マリという女性からのクエストを受注して、彼女の息子のリョウの旅支度を手伝った。その過程で、リョウは魔導士になった。本人は戦士になりたかったようだが、転職屋のサチコの勧めで適性のある魔導士になったのだった。
「ウチも神官を極めたら白魔導士目指そかな」
 黒魔導士が攻撃魔法を習熟した者であるのに対し、白魔導士は回復魔法を習熟した者。フミトはふと疑問に思い、ミズキに尋ねる。
「神官と白魔導士ってどう違うんだ?」
「せやなあ。神官は下位職なんに対して、白魔導士は上位職やから、単純に比較できひんけど。神官は回復メインで攻撃魔法はそんなに使えへん。対して、白魔導士は回復魔法も攻撃魔法も使えてしまうスペシャリストやなあ。回復魔法の方が得意な魔導士ゆうたらええかな」
「ふーん。神官の上位職ってあるのか?」
「あるで。カイミルさんみたいな大神官や、会うたことはあらへんけど、ハイプリーストゆう上位職もあるんやで」
「回復も魔法もできるなら、白魔導士の方が便利な感じするな」
「できることの範囲がちゃうねんて。体力を回復するだけならどっちの職でもええけど、たとえば呪いのかかった道具を扱ったり、封印したりゆうのは神官しかできひんねんで」
 ある程度回復の心得をもった上で、攻撃手段を手に入れるか、サポートスキルを手に入れるか。どちらに舵を切るかの違いのようだ。鬼婆はアマト鉱山に封印されていたわけだが、その封印は白魔導士ではできず、神官の仕事になるということだろう。
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