はじめてのボス戦 -17-

文字数 1,206文字

「コージさん、あの……」
 フミトは何かを言いたそうに、でも言いにくそうにしている。コージは黙ってサムズアップした。何を言いたいかなんて、分かるに決まってるじゃないか。フミトはぱっと明るい表情になった。
「田内さん! ヘドロの分の謝礼っすけど、翔子さんたちに送ってください」
『え? 良いのですか?』
「仕事や学校に戻るとなれば、先立つ物が必要でしょうから」
『……分かりました。彼女の代わりに言わせてください。ありがとうございます。依頼を受注してくれたのが、あなた方で本当に良かった』
「また何かあれば、ご依頼ください」
「できれば次は汚れてもいい制服も渡してほしいっす」
 全くだ、と三人して笑い合った。さてそろそろ失礼しようかという時に、来客が現れた。
『ごめんくださぁい』
 おっとりした口調に、巫女のような装いのすっぴん美女。彼女は……。
「ギンコさん!?」
 薬屋の店主で、口調と相手に与える印象がジェットコースター並みに変化する、変り者三店主の一角を担うギンコだった。
『あら、あなたは、以前にマンドラゴラをお持ちくださった……確か、こうじきんさん?』
「コージです」
 誰が麹菌だ、勝手に発酵させるな、味噌も酒も作ってねえわ。コージは喉元を通り過ぎて歯の裏まで出かかった言葉を、なんとか飲み込んで耐えた。
『あら、ごめんなさい。わたしったら失礼なことを……』
 上目遣いで恥ずかしそうに口元を隠すその仕草だけ見たら萌え要素多めの彼女なのだが、もはやマイナス面が多すぎて全く相殺されない。
「……誰っすか、この人」
「薬屋の店主のギンコさん」
「ああ、前に話してくれた人っすか。……確かに」
 確かにドン引きだわ~と言いたいのだろう。コージはフミトの心の声を補っておいた。
「店を離れてどうされたんです?」
『ああ、研究所に薬品を届けに参りましたの。薬品も薬であることには変わりませんから』
『ギンコさん、いつもお世話様です。確かに受け取りました』
『田内さん、こちらこそいつもありがとうございます。来客中に失礼いたしました』
 こうしてビジネスの会話を聞いていると普通なのに、なぜ突然ジェットするのだろうか。コージは、そうだ、と思い出し、クエスト中に手に入れた素材を取り出した。
「ギンコさん、ちょうどよかった。マンドラゴラの根をまた手に入れたんで、渡しておきますね。俺が持ってても仕方がないし、薬作りに役立ててください」
『まあ!』
 ギンコは口元を両手で覆って大げさに驚いた後、深々とお辞儀をして素材を受け取った。
『また手に入れてくださって感謝の言葉もありませんわ。後ほど御礼をさせていただきますわね。……そうだわ! 先日いただいたマンドラゴラの根でお薬ができたので、少しですがお持ちください! こちらにいらっしゃると分かっていれば、もっとお持ちしましたのに……。これは蒟蒻針(こんにゃくばり)です。石化を解除してくれる中級薬ですわ』
 コージは蒟蒻針を一つ手に入れた!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み