守護四天王 -9-

文字数 1,860文字

『あんなに喜んでいただけると、差し上げた甲斐があります。あの身のこなし、彼女は実は忍者かもしれませんねえ』
「食い物が絡んだとき限定で本気になるだけっす……」
「あんなものを貰ったら、ミズキは毎日入り浸りそうだ」
『ずっと居ていただいても構いませんよ。ランチパスを差し上げたのは、あなた方が頻繁にここに訪れてくれたらいいなあと思ったからですし』
「それはどういう……?」
『あなた方が中々の実力者なのは見れば分かります。今はまだ副団長クラスには及ばずとも、いずれは我々と肩を並べるようになる。そんな気がしましてね。その時、我々の力になってくれれば心強いですから。ランチを無料にするくらいで靡いてくれるのなら、将来に向けた投資としては安いものです』
 要するに、ランチパスで引き抜きしようとしているわけだ。コージ達は旅人という扱いで、どこかの屯所の団員として属しているわけではないため、他の屯所から人員を奪うことにはならない。どこの屯所の依頼を受けるも受けないも自由なパーティだが、亀丸の属する南屯所の依頼を多くこなしてくれれば、屯所としては負荷が分散され、コージ達は食費がかからず報酬も得られる。ウィンウィンの関係になれるということだ。
「それ、言っちゃっていいんですか? 正直すぎません?」
 正直が必ずしも良い結果にはならないとコージは理解している。おそらく亀丸も。その上で、意図を隠さず伝えてきたのは、さらなる裏の意図があるのか。
『腹の探り合いをしたいのならお付き合いしますが、探っても何もでませんよ? これでもワタシは正直者ですから』
 どうしてこんなに胡散臭いのだろう。正直に言っていたとしても裏があるように感じてしまう。
『おや、信じてもらえませんか。悲しいですねえ。ワタシはあなた方の実力を認めていますのに』
「では、ミズキがどれだけ食べても、見返りを求めないと思って良いですか……?」
『心外ですねえ。ランチパスはお使いの御礼と言ったでしょう』
 食ったんだから依頼を受けろ、なんて後から言われたのではたまったものではない。そう思って念を押したが、その心配は一応なさそうだ。そこへ、ミズキが戻ってきた。大量の料理が乗った配膳台を押しながら。
「いやあ、どれも美味しそうで迷ったわあ」
「……配膳台を押しながら戻ってくる客は初めて見た」
「前代未聞っすね……」
『色々注文されましたねえ。品数が多くて、選ぶのも大変でしたでしょう』
「せやねん。おすすめは必須として、ピラフもナポリタンもカツサンドも美味しそうで。迷ったから全部頼んでおいたわ」
 迷った意味。迷った末の結論が”全て選ぶ”なんてどこまで破天荒なのか。料理を並べて席に着くやいなや、もの凄い勢いで食べ始めた。
「見てるほうが胸焼けしそうだな……」とため息をついたコージに対して、
「どれも美味しすぎるわ」とニコニコのミズキ。
『喜んでいただけて何よりです。他のどの屯所よりも美味しい食事を提供している自信はありますよ。いつでもいらしてくださいね』
「もちろんやで」
 亀丸が手をあげると従業員がやって来た。
『ワタシはコーヒーをお替りしますが、お二人はどうします?』
「じゃあ、俺もいただきます」
「オレはアイスで。ガムシロとミルク多めに欲しいっす!」
 ほどなくしてそれぞれ注文したものが運ばれてきて、喉を潤した。
『では、お嬢さんが食事をしている間に、手紙を渡しておきましょう。これです』
 懐から封筒を取り出し、コージに手渡した。
「確かに預かりました」
『よろしくお願いします。届けていただく御礼に、弁当を作らせましょう。本日中に召し上がってください、とお伝えするところですが、おそらく心配ないですね』
 目の前で空になった皿を重ねていく神官レディを見ながら、亀丸は笑ってコーヒーを啜った。ほとんど待たずに大量の弁当が届けられた。ファストフードよりファストだ。なぜにここの従業員はこんなにも給仕力が高いのか。
「弁当気になるなあ」とミズキが視線を送ってくるので、急いでアームヘルパーに仕舞っておいた。今食べたら弁当の意味が無い。
『それでは、ワタシはこの辺りで失礼しましょう。強制はできませんが、気が向いたら我々の依頼も受けていただけると幸いです。クリーチャーの脅威に晒されているのは、どこの屯所も変わりませんから』
 亀丸は去っていった。新たな配達物を受け取ることにはなったが、当初の依頼の目的地はあと一つ。屯所巡りの旅も大詰めだ。
「次の注文してくるわ」
「まだ食うのかよ!?」
 ゴールはまだ先かもしれない。
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