パーティ結成 -11-

文字数 2,056文字

『大体は揃っているのですが、素材不足が影響していて、効果の高い薬は用意がないんですの。ごめんなさい』
「充分な品揃えに思いましたけど、これでも全部じゃないんですね」
『ええ。ここにあるのは下級薬ばかりです。先ほど頂いたマンドラゴラの根があれば中級薬や上級薬も作れるのですが、完成までには時間がかかってしまいますね』
「その、下級薬とか、上級薬とかいうのは?」
『薬の分類です。効果が低いものは下級薬、より高い効果が得られるのが中級薬、さらに高い効果が得られるのが上級薬です。例えば、体力を回復するものですと、下級薬が回復薬で、服用すると体力が50回復します。中級薬は活力剤で、飲むと体力を500回復します。最も効果のある上級薬である命の水は、体力を全て回復してくれます。それ以外ですと毒を回復する毒消し薬と麻痺を回復する神経剤があってこれらは下級薬です石化を直してくれる蒟蒻針は中級薬でこれらすべてを直してくれるのが』
「落ち着いて、息を吸いましょう」
 最初は普通だったのに、途中からスイッチが入って早口になった上に目が血走っていた。毒消し薬の辺りからは興奮して喋っていたから、ほとんど内容が頭に入ってこなかった。
『やだ、わたしったら、また……』
 両手で顔を覆っているが、目の部分はしっかり隙間が開いていて、コージの様子をうかがっている。その特殊なスイッチが入らないようにする薬を作ってくれないだろうか、と心の中で思ったコージだった。
『まとめますと、ここにあるのは下級薬の回復薬、毒消し薬、神経剤です。他は風邪薬や痛風薬などの一般向けのものになるので、戦闘用ではありません』
「痛風薬はともかく風邪薬は持っていても良いような気がしますけど」
『あら、コージさん、風邪引かれることあるんですか?』
「それはどういう意味か問い詰めても良いでしょうか」
 今度は突然毒を吐かれた。今ここで毒消し薬を使ってやろうか。仮想空間で風邪なんて引かないから、風邪薬は必要無いということなのだろうが、言い方ってものがあるだろう。
「はあ……。まあいいです。じゃあ、下級薬全て二つずつください。パーティを組んでる奴にも渡しておきたいので」
 価格を見ると、回復薬は百円、毒消し薬と神経剤は二百円なのでそこまで高価ではない。フミトの分を買っても千円で済む。
『かしこまりました。ちなみに、ダンジョンに行かれたりしますか?』
 ダンジョン……アマト鉱山のような場所のことだろう。今すぐでなくとも、いずれは赴く場所だ。コージは頷いた。
『それでしたら、ご一緒に御守りはいかがです? 御守りと言っても、厄除けや招福のために持ち歩く、効果があるのかどうか疑わしい気休めの縁起物のことではなくて』
 急に口が悪い。毒を止めろ。
『ダンジョンの奥深くにいても一瞬のうちに脱出できる「大地の守り」や、一度訪れたことがあれば、遠く離れた街でも一瞬のうちに移動をすることができる「空の守り」は持っておくと便利ですわ』
 明確な効果がある分、縁起物のお守りより役に立ちそうなのが悔しい。
「両方ください」
『ありがとうございます! これはひとつ使えばパーティ全員に効果があるものです。コージさんだけ脱出したり移動したりはしませんので、ご安心ください』
 お値段はそれぞれ千円ずつとのこと。多少値は張るが、効果を考えれば仕方ない。了承して一つずつ購入することにした。代価の三千円の支払いを済ませてアイテム類を受け取った。
「この店は薬屋なのに、そんな便利な道具まで売ってるんですね」
『実はわたし、以前は神官だったんです。その時は神に祈って、神より賜った祝福を御守りの形にして、大地の守りや空の守りを作っていたんです』
 巫女のような恰好をしているとは思っていたが、まさかの本職のご経験があったようだ。
『今では薬師に転職しましたが、昔も今も、人を助けたいという気持ちに変わりはありませんわ。役割の幅を広げただけですもの』
 穏やかなほほ笑みは、それだけで人を救いそうな輝きがあった。まるで太陽の優しい光のようだった。
『お薬が必要になったときは、いつでもいらしてくださいね。次は中級薬も用意できると思いますわ。マンドラゴラの根があれば、もっと良い薬もできますから。ところでマンドラゴラは薬にもなりますが錬金術や呪術の道具にもされますのそんなことより薬として使う方が何倍も有意義ですのにですからわたしは』
「お薬ありがとうございましたー!」
 またスイッチが入ってしまったので、コージは逃げるように店を出た。そうしたら、今更ながら「クエスト完了!」の表示が出た。クエスト達成報告で来ていたことすら忘れるほどのキャラの濃さだ。好感度がジェットコースター並に上下する人だった。
 すっかり夜になってしまった街並みを眺めながら、自宅へと向かう。何だか疲れた二日間だったが、心のどこかで満足感を覚えていたのも事実だった。これからまた、現実世界に戻らないといけない。日曜日の夜がこれまでよりも憂うつに感じるようになっていた。
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