守護四天王 -3-

文字数 1,916文字

 バス停留所のすぐ近くには、北屯所に良く似た木造校舎のような建物があった。北屯所と違うのは、屯所の入口横に四霊獣――青龍、朱雀、白虎、玄武――が描かれた旗が立てられていることだ。北屯所に比べて自己主張が激しいというか、目立つ。上空に目的地を示す矢印があるし、入口に「自警団西屯所」と書かれた看板が掛けられているので、最初の目的地はここであっているようだ。
「とりあえず、中に入ろう」
 戸を開けると。
「うわ」
「なんやハデやなあ」
 フミトとミズキの正直な感想が背中から聞こえてきた。失礼ながら、コージも二人と同意見だった。なぜなら、部屋で稽古をする隊員たちがみな、例外なく赤い鎧や武具を身に付けていたからだ。それどころか、壁に貼り付けられている軍旗まで真っ赤だ。血に染まった侍たちが、さらなる血を求めて武器を振るっているようにさえ見えた。

『君たち、何か用?』
 背後から声がした。驚いて振り向くと、小柄で童顔な短髪の青年が立っていた。彼もまた赤い鎧を身に付けており、右手には兜――これまた赤色で、鬼の角のような飾りを付けている――を抱えていた。表情からは敵意はないが、隙も無い。いつの間に後ろにいたのか、気配すら感じられなかった。
『ごめんごめん。驚かすつもりは無かったんだけど』
 稽古中の兵隊に近づくと、兵たちは稽古を止め、青年の前に整列した。
『副団長、お帰りなさいませ』
『うん、ただいま。稽古は捗ってるかな』
『はい!』
『最近は厄介なクリーチャーが多いからね。みんなの力を上げていかないといけない。自分の命を守るためにも、しっかり励んでね』
『御意!』
 整列していた兵たちは散り散りになり、稽古を再開した。その様子をぽかんと見ていた三人は、小柄な青年に視線を向ける。
「あいつが、副団長……?」
 フミトの発言に反応し、こちらに振り返ると、にこりと笑って彼は言った。
『うん、僕が西屯所の副団長の虎松(とらまつ)だよ。よろしくね』

『へえ、僕に手紙を届けるために、わざわざ来てくれたんだ。手間をかけたね、ありがとう』
 西屯所一階奥の応接間に通された三人は、平八の依頼の説明をし、預かった手紙を手渡した。手紙を受け取った虎松は、コージ達がまだ同席しているにも関わらず、お構いなしに広げて読みだした。
「ちょ! オレら中身見たら処刑されるって!」
『大げさだよ。せいぜい百叩きや水責めの刑になるくらいだよ』
「どっちにしろごめんだっつーの!」
『冗談だって。君たちが見ても、読めないと思うよ? 盗難に遭ってもいいように、暗号っぽい文章になってるから。本当に盗まれたら爪くらいは剥がされたかもしれないけど』
「とりあえず無事ではすまないんだな……」
『機密情報だからねえ。盗まれても困らない程度のものなら郵便屋を使えばいいわけで。それをわざわざ報酬を用意してまで依頼をするんだ。失敗したら多少の罰は覚悟してもらわないと』
「……すまん、二人とも。なんかわりと重いクエストを軽く受けちまった」
「いや、これは相手の説明不足っすよ……」
「まあ今更言うても仕方あらへん。さっさと残り二人に渡してしまおうや」
 同意だ。手紙を持ってる限り、拷問の恐怖が付いて回る。とっとと重荷を下ろすため、次なる屯所へ行くことにしよう。
『あれ、もう行っちゃうの? もうすぐ夕飯時だし、一緒にご飯でも食べてもらおうと思ってたんだけど』
「あらそうなん? そんならよばれてこか……」
 ミズキの口を塞いで引っ張っていくフミト、ナイス。ミズキには悪いが、飯より命だ。失礼ながら廊下を走って入口まで戻ってきた。隙あらば拷問しようとする性格は、同じ副団長の平八さんとはえらい違いだ。見た目は美少年なのに、バラより鋭い棘を発射してくる。綺麗なバラには棘があるとはいうが、棘の方から近づいてくるパターンはやめてほしい。
「せっかくタダ飯もらえるチャンスやったんに、もったいないことするなあ」
「飯は金で買えるが、命や身体は金じゃ買えないんだ。分かってくれミズキ」
 飯ならまたビュッフェに連れて行ってやるから。
『ところでさ』
「うわ!?」
 背後から声がしたと思ったら、また虎松が気配無く立っていた。侍というより忍者だ。
『平八さんが依頼するってことは、君たちはそれなりに腕が立つんだよね? よかったら誰か手合わせしてほしいなあ』
 長槍を片手で振り回して笑う。選択肢を与えているようで、断ることを許さない。有無を言わせぬ気迫があった。コージは唾をのむ。声が出ない。
『訓練だから、殺生は無しだよ。僕のことなら、殺すつもりでかかってきてもいいけど。じゃあ、先に外で待ってるね。ここは狭いから』
 虎松は三人を残して出て行った。問答無用で戦う気だ。
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