パーティ結成 -1-

文字数 1,645文字

 コージは肩を揺さぶられて目を覚ました。テーブルに突っ伏して寝ていたせいか、首や腰が痛い。胃がムカムカするし、喉もカラカラだ。誰かが目の前に差し出したコップを、礼を言って受け取り、一気に飲み干す。水が食道を流れていく感触を味わって息をつくと、ようやく覚醒してきた。横を見ると、輪を大きくした数珠のようなものを肩に掛けた平八がいた。水を差しだしてくれたのは彼だったのだ。
『昨夜は手荒い歓迎を受けたようだな』
 机と椅子に身体をぶつけながら、コージは立ち上がった。完全に覚醒した。
『そう恐縮されるな。新しい仲間は、みな酒の洗礼を受けるのだ。楽しんでいただけたか』
「はい。随分ご馳走になってしまって」
『楽しんでいただけたのなら、良かった。しかし、容赦のないことだ』
 ふふふ、と笑って平八は立ち去って行った。コージは気が抜けて再び椅子に戻った。どうにも平八の前では委縮してしまう。いち従業員の自分が、大企業の幹部と会話しているような気分になる。
『あんちゃん、気に入られたな』
 そう声をかけたのは、昨晩酒や食事をご馳走してくれたおっさん団員。コージの斜め向かいに座って飯を食っていた。
『平八の旦那は普段から無口でな、無駄な会話はしねえんだ。団員が酔い潰れていたって放置だぜ。それが、あんちゃんのことは起こしてやって、水飲ませてやって、だ。ありゃあ気に入った証拠だぜ。おっと、そういやまだ名乗ってなかったな。俺は又五郎(またごろう)ってんだ。よろしくな』
「俺はコージです。昨日はご馳走様でした」
『いいってことよ。俺達がたまの豪華な飯を食うためでもあるからな。気にすんな』
 彼が食べているのは麦飯に大根の味噌汁に漬物という、質素な朝食だった。
『非番の前なら鰻の蒲焼でもつつきながら酒盛りするが、いつもは茶漬け一杯で済まして寝ちまうことが多いんだ。だが、祭りや祝いとなりゃ話は別だ。つまり、コージは俺達がたまの贅沢をする口実にされたってわけだな。だから、何も気にすることはねえ。俺がやりたくてやったことだからな』
「それでも、ありがとうございます」
『よせやい、くすぐってえ。それより、コージは飯食わねえのか? さすがにもう奢ってやらねえけどよ』
 水を飲んですっきりしたせいか、目の前で食事をされたせいか、コージも腹が減った気がする。又五郎に訊くと、朝はみんな同じメニューだそうなので、コージも全く同じ朝定食をいただくことにした。ただ同然の価格だった。
『四天王最強の平八の旦那に気に入られるとは、コージはよっぽど期待されてんだな』
「四天王?」
『東西南北それぞれに屯所があって、それぞれ副団長が一人付いてるって話は知ってるか? つまり、自警団には副団長が四人いるってことだ。その四人は団の中でも群を抜いて強くてな。街を守る砦の役割をしていることから、守護四天王と呼ばれている』
 急に厨二臭が漂い出した気がする。なんで副団長という立場の奴が四人もいるのか気になるが、仮想空間でもご都合主義は健在ということで納得しておこう。四天王は敵になるイメージがあるが、味方になるパターンは珍しい。「奴は四天王の中でも最弱だ」のような台詞が聞けないのは残念でもある。
『守護四天王の中でも、一番強いのが平八の旦那だ。何百回も戦っているのに、一度も傷を負ったことが無えんだ』
「一度も!?」
 アイバットのように火球を放ってくる敵もいるというのに、信じられない。
『コージは昨日初めてクリーチャーどもと闘ったんだよな? 強敵だと思うか? 昨日はともかく、今はどうだ?』
「そんなに強いとは思いません。闘ったことが無かった俺でも倒せたわけだし……」
『そうだよな。どうしてだと思う?』
「どうしてって……。もともとあの程度の強さの敵しか、この辺りにはいないんじゃないんですか? 昨日、平八さんが言ってましたよ。この辺りの敵は数は多いけど、力はそれほど強くはないって」
『強い敵がいないんじゃねえ。弱い敵しか残らねえくらいに、強い敵を狩り捲ってんだよ。平八の旦那は』
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