挑戦!戦闘クエスト -1-

文字数 1,128文字

 晃司は出勤の準備をしていた。休日が終われば、憂うつな労働に出かけなければならない。昨日はコテツの店を出た後、あまりにも所持金が寂しくなってしまったため、不本意ながらも牛丼クエストをこなしてから現実世界に戻ってきた。
 昨日のルナはゲームがバーチャルリアリティになったような感じで、非現実を味わうことができた。そこからの仕事は現実に戻ってきた感がいつも以上に大きい。ため息をひとつ吐いて、業務開始。社内の人間関係には恵まれているものの、契約外の仕事をこれでもかと任される。もちろん、違法だ。派遣先の正社員が多忙で手が回らない状況であるのにも関わらず、晃司が無理な残業をしなくて良いように配慮してくれたり、社費で外部セミナーを受けさせてくれたりと、派遣社員である晃司を差別しないできた人だった。本当は断って構わない仕事であっても、断れない理由はそこにあった。
 モチベーションが上がらないまま一日の仕事を終え、帰宅しようと打刻した時、隣の部署から拍手が起こった。何かと思って様子を見てみたら、今日で契約満了になる派遣社員へのお別れ会をやっていた。花束と餞別を受け取り、集まってくれた人達の前で感謝を伝える。晃司は最後まで聞かずに、帰宅した。
 帰りの電車の中でスマホを見ていると、派遣会社からメールが届いていた。内容は、契約更新の意思確認だった。派遣の雇用契約は三ヵ月単位で結ぶことが多く、同じ現場で仕事を続ける場合は更新という形で再度契約を結ぶことになる。晃司は今の派遣契約が一ヵ月後に切れるため、このまま続けるかどうかを確認するための連絡が来たのだ。
 派遣社員には派遣会社の営業担当者が割り当てられ、営業担当は派遣契約を結ぶ前の現場見学への同行や、就業後のトラブル対応などをしてくれる。これまでは契約更新の前に営業担当からメールで連絡が来て、お互いのタイミングを合わせて電話面談という形で状況確認と更新の意志確認をしてくれていた。しかし、システム化の波は契約更新にも及んでいたようで、晃司に届いたのは自動メールだった。
 営業担当の負荷軽減のため、連絡漏れ防止のため、今回から更新連絡を自動化し、営業担当者とのやり取り無しで自動更新ができるようになったと、メールの最後で補足されている。「契約を更新しますか?」の質問文と、「はい」と「いいえ」のボタン。晃司はどちらのボタンも押さず、あっさりした温もりのない内容のメールを閉じた。不思議なもので、インターネット回線の契約だったら電話なんてよこさずに自動更新してくれて構わないのに、派遣契約は自動更新だと随分と無機質に感じて、ネガティブな感情が大きくなる。
 結局更新の返事をしないまま、一週間が過ぎ、土曜日を迎えた。
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