はじめてのボス戦 -12-

文字数 1,523文字

「先手必勝っす!」
 フミトが矢を放った。同時に、コージも魔法の吹き矢を放った。空気を割きながら向かっていった日本の矢は、どちらも敵を討つことなく空気を貫いていった。敵の巨大な頭部の中心を狙い、その狙い通りの場所を通ったはずなのに、躱された。
「避けた!?」
「もう一発!」
 コージは続けて魔法の吹き矢を放った。狙いは正確だったはずだが、今度もやはり躱された。矢が眼前に迫った刹那、遅鈍だった敵の動きが一瞬だが敏捷になったように見えた。一度も躱されたことのない、そもそも躱すことなど不可能な速さの矢が、当たらない。
『オオオ』
 今度はこちらの番だとでも言わんばかりに、キョトーオが籠った声を発した。揺れるのを止め、気を付けの姿勢のままに走り出した。その動きからは想像できないスピードであっという間に距離を詰められた。コージは防御する間もなく、巨大な頭でスピードに乗った頭突きをされた。
「がはっ!」
 息ができないくらいの衝撃に襲われ、草むらに吹き飛ばされる。キョトーオは一気に方向転換すると、今度はフミトに猛烈な勢いで突進していった。
「あぎゃ!」
 強烈な頭突きに、フミトはなすすべもなくもんどりうって倒れた。追い打ちをかけるように頭を振り回して殴打してくるため、立ち上がることすらできない。
「この……やろっ!」
 フミトは倒れた姿勢のまま蹴りで迎撃するが、体勢が悪いこともあって全く効かない。それどころか、口を大きく開けて噛みつこうとしてくる。窪んだ口の奥には鋭い牙が並んでいた。
 コージが敵の背後から切りかかるが、やはり躱されてしまう。だが、この隙にフミトは体勢を立て直すことができた。
「フミト! 今のうちに体力を回復しろ!」
「あざっす!」
 瀕死というほどではなかったが、フミトの体力は半分を切っていた。危なかった。グリーンワームやアイバットの攻撃とは訳が違う。草原の主と呼ばれるに足る実力の敵だった。
「あいつ、オレの事噛もうとしてきたんで、気を付けてください」
 翔子さんは奴に片腕片脚を食い千切られたと言っていた。あの巨大な頭で繰り出す頭突きばかりに気を取られてしまうが、本当に恐ろしいのは噛みつき攻撃の方だ。じっとりと汗が滲む。
「剣技を試してみる」
 目にも止まらぬ速さで敵を斬り付ける技である瞬斬剣と、火炎を纏った剣で斬る付ける技である火炎剣。これが今コージが使える技だ。火炎剣は火炎を纏った攻撃をするだけで、斬る速度そのものは通常攻撃と同じだ。それでは敵に避けられてしまう。それならば。

 ― 瞬斬剣 ―

 コージの姿が消え、一瞬にして敵との間が詰まる。勢いそのままに振った剣は、しかし致命傷にはならず、間一髪で避けた敵の頬を切り裂いただけに終わった。
『オオオ……!』
 怒りの表情になり、攻撃後の隙をついて逆にキョトーオの頭突きで反撃されてしまう。尻餅をついたコージに牙を向けた。

 ― 氷縛の矢 ―

 フミトの放った矢が、コージに噛みつこうとしていた敵の頬を掠めた。そして、掠った部分が凍り付いた。敵は大いに驚き、コージから離れた。
「くそっ、外した」
「フミト、すまん。仕留め損ねた。おかげで助かった」
「オレも同じっす。新しい技で活躍するはずだったんすけどね」
「けど、攻撃が効いてないわけじゃなさそうだ。少なくとも、当たりはした」
 敵は顔の四分の一ほどが凍り付いている。反対側の頬はコージの剣技で切り裂かれており、あれでは噛みつき攻撃どころか、まともに顔を動かすこともできないだろう。ひどい有様だが、敵は何人もの人を死に追いやり、翔子の身体と生活を奪ったのだ。同情の余地は無い。片側が凍って重心が変わったせいか、動きが鈍くなったようだ。この機を逃す手は無い。
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