挑戦!戦闘クエスト -3-

文字数 1,268文字

 少し考えて、すぐやめた。目下の問題は、目的地が遠いのに移動手段がないことだ。歩いていたら日が暮れてクエストどころではない。メタバースの中でまで野宿なんてごめんだ。
 さすがに疲れて、バス停のベンチに腰かけた。いくら拭っても額を伝う汗が止まらない。喉も乾いた。すぐ近くに自販機を見つけ、さらに乾きが加速した。どうにか購入できないかと自販機を見てみると、ICカードをタッチできるような場所があり、「アームヘルパーを近づけてください」とメッセージが表示されていた。まさかと思ってアームヘルパーを近づけると、ピッという音が鳴り、飲み物の価格表示が点灯した。150円のスポーツドリンクのボタンを押すと、ガシャン、とペットボトルが落ちてきた。コージはスポーツドリンクを手に入れた。
 喉を潤したときの乾いた身体に冷たい水分が染み渡る感覚は、紛れもない本物だ。ルナの中で栄養を摂ったところで本物の身体にとっては肥やしにならないが、今この瞬間の気分の良さを150円で得られるなら安い対価だ。
 充分な休息を取って、そろそろ移動しようかと思った時だった。一台のバスが停まってドアが開いた。コージは気まずくなって立ち去ろうとしたが、バスの行先は「北出口」となっている。NPC以外が乗っていいのか分からなかったが、方向は一緒のようだし、思い切ってバスに乗ってみた。
『お客様、乗車される場合はアームヘルパーをカードリーダーにタッチしてください』
 車掌から注意された。中を確認すると、交通系IDカードをタッチするようなカードリーダーが乗り口近くに取り付けられており、そこにアームヘルパーを近づけるとピッという電子音が鳴った。自販機もそうだったが、ルナではアームヘルパーがICカード代わりになってサービスを受けられるようだ。
 快適なバス旅だったが、違和感があった。窓の外が全く見えないのだ。まるで窓が全てデジタルサイネージで、真っ白な画面を映し続けているようだった。二十分ほど走ったところで、終点の「北出口」に到着した。
 そこは荒野だった。乾いた地面に僅かばかりの枯草が点在する中に、不釣り合いなバス停。少し先には木製の高いフェンスが、左を見ても右を見ても終わりが見えないくらいにずっと続いている。フェンスに一カ所だけ、開閉できそうな扉があった。とんでもないところに来てしまった。現実世界でこんな場所は見たことが無い。怖くなったコージは引き返そうと振り返ったが、無情にもバスはコージを残して去って行ってしまった。
「どうしよう……」
 コージのつぶやきに応えてくれる者はいない。こんな場所に連れてこられるくらいなら、バスなんて乗るんじゃなかった。激しく後悔し項垂れるコージだったが、視界にガイドが表示されていることに気づく。「自警団の詰所に行こう」。メインクエストのガイドだった。見上げると、目的地を示す矢印は近くにあった。足早に向かった先、矢印の下は、昔の木造校舎のような建物だった。入り口には、「自警団北屯所」と書かれた看板が掛けられていた。ここが目的地だったようだ。
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