そうだ、転職しよう -10-

文字数 1,570文字

 得るものが多いクエストだった。職業や装備について知ることができた。いろいろ準備をすれば、戦闘クエストもやれそうだ。せっかくリアルなRPGゲームができそうな仮想空間にいるのに、街の中だけうろついていたんじゃもったいない。コージは再び転職屋ちぇんじへと足を運んだ。
『ウフフ、さっき振りね。あの子、無事に旅に出られたみたいね』
 コージが店に入るなり、サチコにそう言われた。全てを知っていたかのような口ぶりだ。
『今度はお兄さんが転職する番かしら』
「全部お見通しですね……」
『非力ながらも、占い師ですからね。さて、さっそく始めましょうか。お名前伺えるかしら?』
「申し遅れました。コージと言います」
『コージちゃんね。さっきも言った通り、私のお勧めは戦士。だけど、お兄さんはいろいろな職業を経験して化けるタイプだから、他を選んでも良いと思うわ。魔導士になるなら、パーティを組むことをお勧めするけどね。さあ、どれがいいかしら?』
 まるで一杯目の酒の注文を取るかのような軽い口調だ。いろいろな職業の中には、商人や芸人も含んでいるのだろうか。
『やあねえ。あくまでも戦闘職の話よ』
「心を読まないでください」
 ここまでくるとエスパーだ。この人の前では、下手な事を考えられない。気を取り直して職業のことを考える。戦士か魔導士かアーチャーか。弓や魔法を使うのも楽しそうだが、やはり最初はスタンダードに戦士が良い。
「サチコさんのアドバイス通り、戦士でお願いします」
『オッケーよ。従順な男は好きよ、アタシ。それじゃ、登録しちゃうから、少し待っててね』
 途中寒気がしたが、言われた通りにじっと待つ。サチコはタブレットを取り出し、ポチポチと何か入力していった。現実世界の技術の結晶と、魔法が共存する世界。メタバースならではの芸当だと、コージは思った。
『お待たせ。登録完了したわよ。プロフィールを確認してみて』
 サチコに促されるまま、プロフィールを開く。

名前――コージ
称号――見習い戦士
職業――戦士
所持金――¥35,550
Lv――4
経験値――1,700
体力――67/67
ステータス――正常

「え!?」
 コージは思わず声を上げた。職業は確かに戦士になっていたが、所持金に驚いてしまった。昨日最後に見た時は、6,000円だったはず。それなのに、桁が違ってしまっている。今日の二件のクエストで、まさかそんなに稼いでいたとは。
『どうかした? 戦士になってなかったかしら?』
「あ、いや……。昨日より所持金が大分増えていたので、びっくりしてしまって」
『なによ、登録ミスっちゃったかと思ったじゃないの~』
「すみません……」
『ウフフ、許してあげる代わりに、今度一杯ご馳走してちょうだいね。それじゃ、あなたも萬屋で装備を整えなさいな』
「はい」
『また会いに来てちょうだいね。楽しみに待ってるわよ』
 手を振るサチコに礼を言い、店を出る。その足で、二つ隣の萬屋へ入る。先程とは違って人がいなくなった店の奥から、コテツが出てきた。
『いらっしゃい。おや、あんたさっきの』
「どうも、今度は俺の装備を見繕ってほしくて来ました」
『そうかい。さっきの坊主は旅にでたのかい』
「はい、お陰様で」
『次会うときに、どんな面構えになって帰ってくるか、楽しみだな。それじゃ、あんたの武器と装備を用意しよう。職業は?』
「戦士です」
『わかった』
 コテツは店の奥に消えていった。ぼーっと待っているのも何なので、コージは店内を見て回ることにした。リョウが装備した杖以外にも、剣や槍、弓に銃と、様々な武器がある。防具も、いかにも重そうな甲冑に、動きやすそうな猟師用ベスト、カウボーイが着るようなウエスタンルックのシャツやハットなど、バリエーション豊富に揃っている。サチコが持っていたでかい水晶玉もあった。商売道具の仕入れ先が近所すぎる。
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