そうだ、転職しよう -9-

文字数 1,258文字

『リョウ! おかえりなさい。……剣士にはならなかったの?』
『俺は剣士より魔導士が向いてるって言われた。俺はすぐカッとなるし、冷静じゃなくなるから、戦士の素質が無かった……。危険な場所に出て行こうっていうのに、これ以上自分勝手すると自分の首を絞めるだけだって、転職屋の人が教えてくれた。剣士になりたい気持ちは今でもあるけど、魔導士としてスタートしようと思う』
『そう……。ほんの少ししか経ってないのに、随分大人になっちゃったみたい。きっと、コージさんのお陰ね。本当にありがとうございます』
「いえ、俺はただ付いていっただけですから。ところで、そちらにいらっしゃる方は? ご友人ですか?」
『いいえ、私が雇った旅の剣士の方です。リョウ一人で送り出すのはやはり不安で……。てっきり剣士になってくると思ったものですから、旅のついでに剣の稽古をつけてもらったら良いんじゃないかと思って、独り立ちできるまでの間の旅の護衛と稽古をお願いしたんです』
 また余計なことを、とリョウが癇癪を起こすのではないかとヒヤリとしたコージだが、リョウは驚嘆の顔を浮かべて剣士に近寄った。
『この人……! 昔、俺を助けてくれたの、この人だよ! ほら、言ったろ、街の外に出た時に、クリーチャーから助けてくれた旅の剣士の話。あなたですよね』
 沈黙を保っていた剣士の男はリョウを一瞥し、僅かに眉を動かした。
『そういえば、昔この近くで子供を助けた覚えがあるな。随分と大きくなった。マリさんが仰ったとおり、君と一緒に旅に出ることになった。よろしく頼む』
 彼はルイという名で、確かに過去にリョウを助けた旅の剣士だった。リョウは憧れの剣士と旅に出られると知って、テンションが上がっている。
 マリの言葉通り、リョウは大人になったようだ。いくらパーティを組むように言われたとはいえ、最初に会った時の反抗期のリョウなら、マリの雇った人間との旅なんて突っぱねただろう。パーティを組むのが憧れの剣士であることを差し引いても、反抗期に勝てたかどうか分からない。サチコの説教がよほど効いたようだ。サチコは占ったときに、この光景が見えていたのかもしれない。
 予想通りマリは薬をたっぷり用意しており、回復薬だの毒薬だのがぎっしり詰まった袋を手渡してきた。最後の過保護を、リョウは文句を言わずに受け取った。そして、いよいよその時が来た。
『それじゃ、行ってくるよ』
『……いってらっしゃい。頑張ってね。疲れたら、いつでも戻ってきなさい』
『……ありがとう、母さん』
 リョウはルイとパーティを組み、旅立っていった。マリの目は潤んでいたが、小さくなるリョウの後ろ姿から決して目を離さなかった。
「行ってしまいましたね」
『ええ。心配なのは変わりませんけど、今のあの子なら大丈夫。そう信じています』
 ハンカチで涙をぬぐったマリは、笑顔だった。
『この度はお世話になりました。御礼はすぐにお送りさせていただきますね。本当にありがとうございました』
 深々と頭を下げたマリ。そして、「クエスト完了!」の表示が出た。
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