守護四天王 -8-

文字数 2,237文字

 職業についてわいわい話しながら、食堂で亀丸の戻りを待った。南屯所の食堂は、外装と同様にお洒落なカフェのような内装で、飯時の時間ではなくても軽食やデザートを注文できるようになっていた。食堂内の四人掛けのソファー席の片側にフミトとミズキが並んで座り、反対側にコージが座った。ミズキはフルーツや生クリームがたっぷり入ったパフェを頼んで幸せそうにしていた。
「それにしても、いきなり戸が開いて亀丸さんが登場した時はびっくりしたな。まるで到着するのが分かっていたみたいなタイミングだったし」
「監視カメラでもあったんすかね?」
「メタバースにそんな現実的な話持ち込むんかな? そういうシナリオやったんとちゃう?」
『いえいえ。団員ではない者が敷地内に入った際に検知できる魔術を張り巡らせておいただけですよ』
 突然会話に加わってきた亀丸は、いつの間にかコージの隣に腰かけていた。しかも片手にはコーヒーカップ。足を組んで優雅にコーヒーを啜っていた。
「ぎゃー!!」とフミトが叫び、
『元気でいいことですが、貸し切りではないので、お静かに願えますか』と注意された。
「いつからそこにいたんですか!?」
『八秒前から。食堂にはもう少し前にいましたが、コーヒーを注文していたもので』
「いや、全然気づかなかったんすけど……」
『修行が足りませんねえ。虎松ならワタシが食堂に入った瞬間に気づくと思いますよ』
「どっちも忍者みたいやなあ」
『あながち間違ってはいないかもしれません。虎松は幼少期から命の危険と隣り合わせの人生を送ってきましたから、人一倍気配や敵意といったものに敏感なんですよ。それは忍びが持つべき資質と似たものがある。ワタシは彼との喧嘩を通じて気配の読み方や消し方を習得しましたから、そういう意味ではどちらも忍者のようなものです』
「喧嘩って……。仲悪いんすか?」
『昔の話です。大変生意気な子ですから、どうも馬が合わなかったんです。それに人員問題でも衝突しました。若くしてワタシと同じ副団長となったはいいが、人生経験や人徳の問題で部下があまりおらず、団長の命で一時期は彼のところにばかり人員が割り当てられていたんです。そうなれば相対的にワタシ達のところの部下が少なくなる。特にワタシのところはほとんど部下が取られてしまいましてね。虎松の手腕に疑問を投げかけたこともありました』
「昔の話ということは、今はその確執は無くなったんですね」
『ええ。東屯所の副団長を務められている小平次さんのご配慮のおかげでね。ワタシ達の間に入って、文句があるなら喧嘩でもしろと言われてしまいました』
「それ配慮したって言うのか?」
「たぶん、不満を内に溜め続けて爆発するよりも、お互い言いたいことを吐き出して発散させた方がいいって思ったんだよ。口だけじゃなくて、拳も出たみたいだけど」
 フミトは若干引いているが、コージは小平次の取り持ちに納得した。不満を内に溜め続けて爆発した経験をした者なら、その配慮が痛いほど染みる。内に溜め続けた不満は、いずれ謀反という形で内部崩壊を起こす可能性がある。おそらく、小平次はそれを事前に防いだのだ。
『そういうことです。生意気な子だという印象は今でも変わりませんが、実力は本物だと思っていますよ。ワタシは剣の腕は並程度ですから、彼への嫉妬があった。その感情とも付き合えるようになった今は、彼を副団長たる実力があると認めています。彼が成長したいま、人員問題も解決していますしね』
 そう言ってコーヒーを啜った。カチャリ、とカップを置き、手を組むと、目つきが変わった。
『さて。それでは本題に入りましょう。まず、御礼ですが』
 黒光りするカードを差し出してきた。クレジットのブラックカードのように見えるが何だろうか、と三人が思っていると。
『この南屯所の食堂で見せれば、無料で食事ができるランチパスです。有効期限なしですよ』
 ミズキの目が光った。
「もろてええん?」
『ええ。御礼ですから』
「コージ、ありがたく貰っとき」
 親戚からのお小遣いを遠慮する子供に、受け取るよう背中を押す母親のような強い口調で指示してきた。無料となればミズキは遠慮会釈なく食堂を食い荒らすはず。亀丸はミズキの大食らいっぷりを知らないからこんなものを差し出してきているが、彼女の鉄の胃袋を知っているコージはおいそれと受け取れなかった。
『米の一斗や二斗、毎日召し上がっていただいたところで、さして痛くはありませんよ。ですから、ご心配なく』
「一斗! ……ってどんくらいすか?」
 知らずに驚いていたのか。一合や一俵と比べると、米の単位としてはあまり聞きなじみはないが……。
「十合で一升、その十倍が一斗。一斗の四倍が一俵や。一合が大体百五十グラムで、一斗はその百倍やから……十五キログラムってとこやな」
 即答するミズキ。さすが食い物にかけては博識だ。
「毎日十五キロ食っても痛くないのか!? あ、でもミズキならそれでも足りないかも……」
「失礼やで、フミト。いくらウチでも十キロが限界や」
 むしろ十キロなら食えるという事実にコージは戦慄した。普通のレストランなんか下手気に連れて行けない。従量課金制食べ放題では、貯金がすぐに底をつく。
「さっそく使うてええ?」
『ええ、もちろん。ランチのビーフシチューとシーフードドリアは特におすすめですよ』
「すぐもろてくるわ」
 ランチパスを持って風のように消えて行った。いつランチパスを取ったのか、全く動きが見えなかった。
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