挑戦!戦闘クエスト -4-

文字数 1,548文字

 こんなクエストなんて受けずに、無難に手助けクエストをこなせば良かったかもしれない。そんな後悔の念が過ったが、後の祭りだ。荒野に立っているよりはマシだと思い、意を決して詰所の扉を叩いた。
『誰だ?』
 扉の向こうから、低く芯のある低音が返ってきた。威圧されているわけではないのに、体の芯から緊張が沸き起こるような感覚を覚えた。
「クリーチャー退治の依頼を受けた者です」
 コージが返事をして間もなくガラリと戸が開けられ、戦国時代の武士のような大鎧を身に付けた、坊主頭で眼光鋭い大男がのそりと出てきた。コージの身長は一般男性の平均身長程度と、別に短躯というわけではないのに、見上げなければ目が合わないほどの巨躯だった。
『掲示板を見て来てくれたのだな? このような僻地まで足を運んでいただいてかたじけない。立ち話もなんだ、中に入ってくれ』
 コージは男の案内に従い、建物へと足を踏み入れた。玄関を通った先は広めの待機所のようになっていて、大男より軽装だが武士の格好をした男たちが談笑していた。全員土足で傍らに武器を持っている。
『申し訳ないが、ここからは履物を脱いでくれ』
 入口と反対側には縁台が置かれていて、そこで靴を脱いでし室内に上がるように指示された。昔の学校のような外観ではあるものの、別に勉強机が並ぶ教室が続くわけではなく、大部屋がいくつかあるだけだった。階段を上る。二階は一階と異なり小部屋が並んでいた。その中の一室に通され、お互い座布団に座って向き合った。
『申し遅れた。私は副団長の一翼を任されている平八(へいはち)と申す。まず、此度の依頼を引き受けてくれたこと、感謝する。団長は多忙ゆえ、不肖ながら私から依頼について説明させていただきたい』

 平八は懐から蛇腹に折られた紙を取り出し、広げて見せた。「街」と書かれた大きな四角に、その上下左右に「屯所」と書かれた小さな楕円。コージから見て北にある屯所を指さして平八は語り始めた。
『お主も見たであろうが、街は垣根で囲まれており、そこを出れば敵が蔓延る土地となる。我々自警団は街の東西南北に屯所を構え、垣根の外から敵が侵入せぬよう目を光らせている。屯所でありながら、敵の接近にいち早く気づくための物見やぐら代わりにもなっているのだ。それぞれの屯所に副団長が一人付き、団員をまとめている。今我々がいるのは北屯所だ。私はここの指揮役を担っている。団長は全ての屯所のまとめ役であるので、一所に留まることは無い。ここにもほとんど姿をお見せにはならないが、もしお見えになることがあれば紹介しよう』
 話について来れているかと目線を向ける平八に応えるように、コージは頷いた。
『私を含め常駐している者もいるのだが、団員のほとんどは街の有志やお主のように依頼を受けてくれた者たちだ。故に人手は常に不足している。加えて戦闘力は人によって大きな差がある。戦闘を専門としている我々と、普段は商いに勤しむ有志の街人とでは差が出るのは当然だからな。そこで、お主のような存在が重要になってくる。可能な限り、力添えいただければ心強い』
 そう言って平八は深々と頭を下げた。コージは慌てて頭を上げてもらった。
「依頼を受けておきながら申し訳ないんですけど、俺はまだ戦闘経験が無くて……」
『なんと、そうであったか。だが、そう恐縮されるな。別に珍しいことではない。ここで依頼を受けて初陣を飾り、その後も戦いの中で学び、力をつけ、信頼を勝ち得た団員もいるからな。それに、この辺りの敵は数は多いがこの力はそれほど強くはない。強い戦力より、頭数が必要なのだ』
 ほっと息を吐いたが、まるで大企業の雇用のようだと思った。一部の正社員が指示役となり、マンパワーが必要な業務を外部の人間に委託するやり方に近いものを感じた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み