再スタート -5-

文字数 1,467文字

 ルナにログインした。昨日よりかなり早い時間に来たが、フミトはいるだろうか。待機所にはいないようだ。まだ夕食には早い時間なので、食堂は開いていない。まだ来ていないか。じりじりする気持ちを晴らすためにも、外に出よう。コージは荒野ではなく、街へ向かった。八つ当たりのようにクリーチャーを退治したところで、みじめになるだけだ。今日は手伝いクエストをしよう。
 例の掲示板に向かい、貼り出されている依頼を見る。自警団クエストに、いつもの牛丼クエスト。以前コージが引き受けた犬(タロー)の散歩クエストも出ていた。一度付き合ったきりだし、タローに会いに行ってみようか。コージは散歩クエストを受注した。
 タローと飼い主の老人が住まう立派な一軒家に行くと、縁台に座った老人と、彼の足元に行儀よく座るタローがいた。コージに気づくと、タローは勢いよく走ってきた。
「タロー、元気にしてたか」
 コージの周りをぐるぐる回っては『ワン!』と尻尾を振る。頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。なんとなく、フミトに似ているような気がした。
『兄ちゃん、この間タローを散歩に連れて行ってくれたよな? また行ってくれるのかい?』
「はい。今から散歩に連れて行っても良いですか?」
『もちろんだ。今日は腰が痛むから、散歩は諦めてくれって、さっき言い聞かせてたところだったんだ。よかったな、タロー。今日は散歩に行けないと思って、しょぼくれてたんだ』
 老人はよたよたと玄関に入ると、散歩用の手提げ袋とリードを渡してきた。タローの尻尾の動きが一層激しくなった。
『よろしく頼むよ』
「行ってきます」
 リードを嵌めると、タローはもう我慢できないと言わんばかりに走り出し、コージの方が引っ張られてしまう。
「タロー! 急ぐなって!」
 住宅街を早足で通り抜け、広い並木道に出た。止まって木だの電柱だのにマーキングしまくったかと思えば、突然走り出して、それはもう大はしゃぎだった。途中の公園で水を飲ませて、体中にくっついた草切れやひっつき虫を払ってやると、タローは嬉しそうに尻尾を振った。今回も満足いくまでタローに付き合ってやっていたら、家に着くころには夕暮れになってしまった。
『また長いこと付き合ってくれたなあ。タローも満足気な顔してら。ありがとうよ』
「いえ。遅くなってしまってすみません」
『タローのわがままに付き合ってくれたんだろう? 感謝してるよ。時間があったら、お茶の一杯も飲んでいきなよ。兄さんは何も飲んでないだろう?』
 老人の仰る通り、コージは喉がカラカラだった。お邪魔するには失礼な時間帯になってしまってはいるが、タローも「入らないの?」という感じで見つめてくるので、お言葉に甘えることにした。さすがに居間にまで上がり込むのは気が引けたので、縁台にお邪魔した。
 緑に溢れた庭を眺めていると、老人が温かいお茶を淹れて持ってきてくれた。礼を言って口に含むと、懐かしい風味と甘みが広がった。
「おいしいです」
『そりゃよかった。家内ほどうまくはいかないが、儂でもやりゃできるもんだな。お客さんが来たら、儂しか茶を出してやれる人がいないんだから、自分でやるしかないだろう? 最初は茶っ葉がどこにあるのかも分からんで途方に暮れたが、家内はどうやってたっけなあと思い返しながら真似したら、そのうち何とかできたんだよ』
 前回の依頼の時に、彼の奥さんは亡くなったと聞いた。老人を心配した客が来ると言っていたから、お茶淹れも慣れたのだろう。他愛もない話をしている間、タローはコージの足元でずっと座っていた。
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