はじまりの日
文字数 1,071文字
そっと、お姉ちゃんは私の膝に触れた。転んで擦りむいた私の膝に。そこに、絆創膏を張ってくれたんだ。
私はお姉ちゃんの持っていたスイーツを食べて、膝の痛みを忘れていたよ。そのことに気づいてハッとすると、お姉ちゃんはもう一度笑って、言ったんだ。
ここは水に囲まれた島、「メルクリウス」。人口約30万人の小さな国です。島の中央には、たえず水を流し続ける不思議な不思議な大木「ウンディーネの木」があり、年に数回、木の下ではスイーツのお祭りが行われます。
「メルクリウス」は観光地としても人気ですが、とくに有名なのはスイーツです。この島国には、なんと1000を超えるスイーツのお店があるのです。
この島の人々はスイーツを楽しみ、あるいは学びます。島の外からもスイーツを求め、あるいは学びにやってくる人がたくさんいます。「メルクリウス」はスイーツを愛する人たちにとって天国なのです。
しかし一方で、毎年多くのパティシエールが夢に破れお店を畳んでしまう、スイーツの激戦区でもありました。
ある夏の日のこと。そんな『メルクリウス』に、1人の女の子がやってきました。
女の子はぐぐーっと背伸びをして、どこまでも続いていそうな青空を見上げます。
女の子は足元に置いてあったトランクケースを掴みました。荷物がぱんぱんに詰め込まれた、大事なトランクケースです。
そして、女の子は歩き始めます。たくさんのワクワクを胸に詰めて。ここから、彼女――フランボワーズの物語は始まるのです。