第157話 未来

文字数 791文字

 選手たちも解散し観客も帰って人気も少なくなった県営球場。応援席で待つ遥と愉香のところに望未がやって来る。
「望未君……」
「応援、ありがとう」
「望未君、お疲れ様」
 なんて声を掛けて良いか分からない愉香に対して、遥はしっかり声を掛ける、これが共有している時間の差なのかもしれない。
「ごめん、負けちまった」
「先輩たちには悪いけど、来年、私たちにはもう一回チャンスがある」
「……そうだね」
 二人のやり取りに愉香は羨望と祝福の眼差しを向ける。
「ごめん、しんみりさせちゃったね」
 遥は慌てて取り繕う。そんな遥に望未は優しくかぶりを振ると、
「颯来は?」
 と愉香を見る。
「そうね、こういう時こそ」
「颯来ね」「颯来君よね」
 愉香と遥の声が揃う。
「隠れてたからそろそろ来るんじゃない?」
 愉香の視線の先から、タオルをほっかぶりにした颯来が挙動不審に現れる。愉香が顔を向けたことで出て行く機会を得た感じで小走りに寄ってくる。小さく手を振る遥。
 久しぶりに四人が揃った。
「遥ちゃん、残念だったね、望未も」
「何で真っ先に遥なのよ」
「え、だって遥ちゃんだって一緒になって戦った部の一員だぜ?」
「……そうね」
 颯来の正論に返す言葉が見つからない。
「マネージャーだって悔しいに決まってるじゃん」
 その言葉に遥は潤んだ眼を隠すように顔を背ける。
「……」
「……」
 黙る二人。

「応援ってキャッチャーに似てなくない? ナイスピッチは投手の手柄、勝利だってほぼほぼ選手たちだけのものって感じでさ。リードや応援で背中を押すことはできても、その主たる要因には成りえない」
「……そうだな」
 望未は改まって遥へ向き直る。望未の顔を見ていられない遥ははぐらかす。
「颯来君はインターハイ出場だもんね、頑張ってね」
「あ、遥その話は……」
「クーゥゥ……、ニャローォッォォ、彦のヤロウ」
 頭のタオルを取って振り回す。愉香は遥を連れて避難する。
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