第56話

文字数 442文字

「負けて慰めてもらおうと、愉香ちゃんのところまで来たって訳、な、颯来」
「何を勝手な」
 と颯来。
「でも遥ちゃんが颯来を慰めてくれるんなら……」
 チラッと望未を見る。
「俺は愉香ちゃんに慰めてもらおうっと」
「何を勝手な」
 と愉香。
「武君……彦君は愉香が好きなんだ」
「ちょっと、遥」
「はい、とっても大好き。名前どっちでもいいよ。それと普通聞かないでしょ、本人居るのに」
「へー」
 千城の突っ込みはスルーして頷く遥、さりげなく颯来と愉香を窺う。その姿を見つめる望未。

 僅かな沈黙が時をさらう。それを嫌った望未が切り出す。
「俺、そろそろ帰るわ」
「じゃ、おーれも」
 颯来も便乗する。
「えー、せっかく仲良くなれたのに」
 千城の甘えた駄々を颯来がお腹でやんわりと断る。

『ぐぅぅぅ』
 パンの匂いだけの生殺し状態は、育ち盛りの男どものお腹には、どうにも酷だったようである。試合後なら尚更だ。
「じゃ、また……」
「遥ちゃんじゃあねぇ」
「みんな気を付けて」
「愉香ちゃん学校で」
「愉香、パンごちそうさん」
「ベーっだ」
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