第20話 有名人

文字数 675文字

 中村の檄が飛ぶ重い雰囲気の練習中、望未はグラウンドに一人の男を連れてきた。
 颯来である。

「ちょっと見てもらっていいですか?」
 マウンドに立つ望未、ホームベースの上に『蹲踞』の姿勢で腰を落とす颯来。
「何か、このグローブ嫌だな、いつもの方がいいな」
 文句を言いながらミットを構える。
「颯来、そこじゃない、もう少し後ろで構えてくれ」

「おい、何するんだ?」
 中村が慌てて出てくる。
「中村先輩、颯来の後ろで見てください。誰か打席に入って」
「ちょっと待て、彼は何だ? 制服だし」
「捕れるんです、颯来なら」
「って部員じゃないだろ」
「入ってもらいます、野球部に」

「何勝手なこと言ってんだ」
 突っ込んだのは颯来。

「あれ、コイツ……」
 騒ぎに気付いた三年の石井が颯来の顔を確認する。
「知ってるのか?」
「思い出した、全校集会で表彰されてたじゃん、な、中村」
「いや、知らん」

「……」
 颯来は少し期待した分苦笑い。

「この間暴れてた奴じゃん」
 もう一人の三年、宮沢もいつの間に集まっている。
「あ、先日の乱闘騒ぎの暴れん坊もコイツか」
 石井も気付く。
「そうそう、先生に押さえつけられてもジタバタ暴れてて」
「暴れん坊将軍!」
 二人ハモる。

「はは……誰が将軍だって?」
 再び颯来は落胆する。

「……とりあえず……投げてみろ。……いいかい、有名人?」
「ま、とりあえずは」
「じゃあ、防具して」
「面とか、胴とかッスか?」
「いや、野球の……」
「分かんないから、これだけでいいです。……何か気持ち悪いな、これ」
 マスクだけ付ける。
 それを見た石井は、ため息をつきながらバットを持って打席に入る。
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