第111話

文字数 956文字

 四回戦。東栄は今年、投手力に難がありエース不在と言ってもよかった。継投で繋ぎ、中村のリードで抑える、超攻撃型のチームである。
 その強力打線の東栄を、先発春原が五回四安打、一フォアボール、無失点で抑える。連投、そして次の更科高との対戦を見据えて春原は降板する。これは始めから決まっていたことだった。強力打線にランナーを背負う場面も多かったが、二度の併殺打、リードで望未も春原を助ける。
 勝ち投手の権利を春原に、そのチームの想いが二回、仙波のツーベースヒット、続く望未の連続ツーベースで先制する。貧打、守備の大城学園が最高の形を作った。

 六回からは二年生、三番手ピッチャー飯野がマウンドを託される。その六回裏ツーアウトで中村に打順が回る。
「いいリードだな。ピッチャーも良かったけど、来生が上手くピッチャーの気持ちを乗せている」
「先輩のおかげです。この打席でも、きっちり成果を出してみせますよ」
「そうはいくか」
 春原の時は力で封じた、飯野ではそれは難しい。
「三番、中村は高めが好物だ。多少ボール球でも振ってくる。苦手はインコース、ただし甘く入れば持ってかれるぞ。コースは丁寧にインコースでカウント取って行こう」
 望未は飯野にそう言い聞かせてあった。その初球。
(さっきまでのピッチャーには力押しで、来生のリードも配球より投手のリズム、ノリを重視してた。ここからが俺と来生の駆け引きだ)

(さて……飯野は元々打たせて取るピッチングだ、先輩に読まれないようにしっかり組み立てていかないと)

(ピッチャーが変わって、中学時代から苦手なインコース、来生がそれをどう使ってくるかがキモだな。強気で攻めてくるはず。前の二人を見る限り変化球投手……)

(中村先輩が狙うはインコース。俺が初球、先輩の苦手をつくと考えるセオリー、その裏の裏を読んでくるはず。その証拠に微妙に立ち位置を変えて俺の意識を誘っている)

 サインが決まる。望未が選んだ球は高めの釣り球、ストレート。
(まさか大好物が最初から出てくるとは思うまい。好物に思わず手が出ちまうだろ、振り遅れで。飯野、渾身のストレートで腰抜かしてやろう)
 飯野は振りかぶるとマックススピードのボールを放る。変化球投手の飯野には、たった一球のスピードボールを見せ球にするだけで変化球が七色に輝く。
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