第9話

文字数 674文字

 中学一年生も最後の期末テストが近づいてきた時であった。

 放課後、一人自主トレのランニングの最中に小さな悲鳴に気付いた颯来。まだ街灯も点かない時間帯にもかかわらず、女性は車に押し込まれそうになっている。
 颯来と同じ学校の制服。言葉を交わしたことは無いが、噂で見たことのある顔、遠野遥だと分かった。
 颯来は迷うことなく走り出す車の前に飛び出る。突然の予期せぬことに慌てた車はハンドル操作を誤り、電柱に当たった後、側溝にタイヤを取られ脱輪する。
 近所の通報もあり、何とか窮地を脱した遥。前席のシートに頭でも打ったのか気絶はしていたものの、外傷もなく無事であった。
 しかしそのストレスから心と目を閉ざしてしまう。
 遥が視界を閉ざしてしまったことを知った颯来は、心のケアを理由に遥の前に出ることを拒んでいた。それでも愉香との間柄が二人を引き合わせた。

 遥は自分を助けてくれた颯来の顔を現在もまだ知らない。



「……そうなのか」
「てっきり、愉香が俺の事好きだから、とでも思ったか?」
「あぁ……」
「そんな訳ねぇーだろ」
「……そうだな、そんなことする子じゃあない」
「警察と学校から表彰されたんだぜ?」
「へぇ」
「校長先生の話聞いてなかったのか?」
「悪ぃ、興味ない」
「コンニャロ」

 遥の目は心因性の視力障害、つまりはそのストレスが取り除かれることによって、再び視力を取り戻せる可能性があると言える。
 遥は自宅では視力が回復する。一歩外に出ると、その視力はほぼ閉ざされてしまっている状態であった。
 幼馴染で家が真裏にある愉香は、回復を信じて遥の目の代わりを買って出ている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み