第128話

文字数 762文字

 前の試合が終わる。審判の入れ替えが終わると、主審、豊橋、颯来の三人の息がピッタリ合った動きで、試合開始までスムーズに流れていく。
「始め」
 スッと真上に立ち上がる両者。蹲踞から変わらぬままの間合いで静かな探り合いが始まっている。

 豊橋は『出鼻一撃』タイプである。相手を誘い出し、その『後の先』を取る戦法だ。同じ『一撃必殺』型でも自分から飛び込んで行く類ではない。当然連打をする部類でもないため、居合のように抜いたら必ず鞘に戻して仕切り直す、そんな感じである。
 颯来のように相手に攻撃をさせるジャンルの剣道であっても、打ち込まなければ勝てないのが道理である以上、どこかで攻撃に転じなければならない。そこの争いになると言えよう、『誘われるか』『誘いに乗ったフリをするか』『我慢できるか』である。

 颯来も豊橋の剣道は分かっている、豊橋から打って来ることはまずない。選択肢としては、
 一、飛び込み技で勝負、打って出る。
 二、豊橋の出鼻技を予測し、それなりの技で仕掛け誘い出す。
 三、逃げ気味に打った後、構えを取らせない乱打戦に持ち込む。
 四、ひたすら待つ。
 この四つくらいだろうか? 
(まず一、は無いな)
 颯来が打った瞬間打たれるだろう。
(四も無い)
 誘そい出され、その瞬間打たれるだろう、誘い合いでは豊橋の方に分があるように感じる。
(連打に自信もあったが三も無いだろう)
 ならば二番しかない。お互いが動くのを待っている、いや、相手を動かそうとしている。
 動く瞬間を狙い打つ豊橋。誘い出し、打ってきた技を切り返したい颯来。竹刀を下から上から払ってみたり叩いてみたり。足を強く踏み鳴らしての威嚇、体捌き、足捌き、体重移動でのフェイク。
 引っ掛かってしまったのか、どこまで裏を読んできているのか、ほぼ同時に颯来と豊橋がモーションに入る。
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