第143話

文字数 524文字

 中継にボールが返ってくる。望未がホームに突っ込む。キャチャーへの返球はホームベースやや左、コースはいいが少し高い。キャッチャーは捕りながら下へとタッチに来る。回り込む望未、ミットの下をくぐりのけた左手がホームベースに触れる。
「セーフ! セーフ!」
 ランニングホームラン。サヨナラ逆転である。スタンドもグランドも大興奮で荒れる。
 ベンチから出てきた選手たちに埋もれる望未。その中で春原と無言の喜びを共有する。

 すべての挨拶が終わり、引き上げる選手たち。差し出した手を里見が拒否した理由を、望未は察していた。望未だけではない、里見は誰とも握手しなかった。

「ありがとうございました」
 力強く握られたその手は、マメが何度も潰れて固く、大きく、そして分厚い。
「どうかしましたか?」
 放した右の手を見つめる彼方に望未が声を掛ける。
「俺だって手が痛い……」
「え?」
「……負けた言い訳だな」
 手を見つめたままそれだけ呟くと歩き出す。背番号3に望未は帽子を取って最敬礼をする。
 恐らく里見へのデッドボールは右手指だったのだろう、だから打てた……。

 応援席では遥が他のマネージャーたちと一緒に泣いて、喜んでいる。後二つ勝てば甲子園だ。
(やったぞ颯来、お前はどうだ?)
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