第32話

文字数 560文字

 颯来はそれ以来、遥への見え見えのアプローチを控える。遥は颯来の側へ付き添っている。
 愉香も、望未も、周囲は『何となく』、『成り行き』で『当たり前』のように颯来と遥をいつの間にか公認している。
 しかし遥の目が見えた次の日の放課後、颯来が職員室に呼ばれた事実はあまり知られていない。


 遥の目が見えるようになり、四人は以前よりも『その時』を謳歌した。望未と颯来は部活に励み、遥は良く二人の練習を見学していた。愉香だけは一人先に帰ることが増え、望未は心配したが家の手伝いがあると知って納得した。その代わり休みの日は四人で出かけた。三年に上がり、そして卒業……四人が四人とも同じ進路を行くことはできない。
 三年の大会、颯来は踊り場から踊り場までの十二段の階段を飛び降りた時、勢い余って正面の壁に当たり着地に失敗、骨折で出場していない。そして『なぜそんなことをしたのか』誰も、遥さえも知らない。

 颯来の代わりのキャッチャーを育て上げ臨んだ秋の新人戦で、彼方の抜けた坂月中に敗れた望未はあっさり捕手に転向。エースの座をその後進に託した。
 夏の大会は三回戦で負けたが、来年に繋がる経験をさせることができ、望未は捕手の奥深さを実戦で学んだ。
『望未が投げてさえいれば』そう言う三年生は誰一人いなかった。

 そして中学校生活は終わりを迎えた。
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