第16話

文字数 675文字

 千城が颯来の誘いに引っ掛かり打って出る、千城自身の飛び込む力に颯来が『力の方向』と『力をプラス』することで千城の打ち込みを『いなす』。そのまま右に体を入れると、千城の左面に打ち込む。
 体勢を崩されたはずの千城は、颯来の面打ちを払って避ける。
(まさか!)
 普通なら避けられるはずがない、しかし悔やんでいる場合ではない、すぐさま追い討ちを入れる。
 千城も応戦する。颯来はパワーで押していくものの、千城の竹刀捌き、体捌きは見事なもので、攻撃はことごとく避けられる。
 距離を取り直す二人。消耗しているのは颯来。颯来は元来スピードでもパワーでも負けたことがない。それを千城に先手を取られてしまい、完全にリズムが狂っている。
(落ち着け)
 距離を取ったことで、鎮めようと深く息を吐く。
 その瞬間を狙ったか、千城が距離を詰める。颯来は思わず釣られてしまう。
 両者がほぼ同時に面打ちを放つ。

「面有り!」
 主審がコールする。
 両者の面打ちは、颯来の竹刀が千城に届くその前に、颯来の面を打ち抜いていた。
 颯来は相打ち面でも、そのパワーで相手の竹刀を吹き飛ばし自身の竹刀を振りぬく自信があった。しかし、千城のそれは圧倒的なスピードで『相打ち』にならなかった。

「一本勝ち、勝負あり」
 その後、そのまま三分が経過し、千城が決勝戦へと進んだ。千城は危なげなく決勝戦では二本勝ちをし、優勝を決めた。


 面を取った千城はかなりのイケメンだった。何もかも気に入らない颯来は『千城』と記されたゼッケンを深く心に刻む。
 颯来もまた、悔しさを味わった他の選手たち同様、短い夏を終えたのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み