第153話

文字数 310文字

 これこそが野球の醍醐味なのかもしれない、九回ある中の一球に掛ける瞬間。いや、野球だけではない。夢中になれる『こと』があって、『それ』に自分が研ぎ澄まされる瞬間がきたとき、人はそれを振り返って青春を想うのであろう。



 望未の要求通り、今日一速いボールがインコース低めに入ってくる。振ってくるバッター、完全に差し込んでいる。
(よし!)
 望未はそう思った、そう思ったその時だった。

 真っ白だった。何が起きたのか瞬時に判断できなかった。ミットに感触が無い、ただそれだけが事実だった。

 大歓声で我に返る。
(後逸だ!)
 慌てて振り返る。ボールはバウンドして転がって行く。走り出した望未の後ろで三塁ランナーがホームを踏むのが分かった。
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