第156話

文字数 688文字

『ギィン』
 濁った音がする。金属バットが響かない打ち取った当たり。一塁線上に鈍い当たりのゴロだ。ランナーたちは次のベースを目指して走り出す。牽制する三塁ランナーに備えすぐに自ら捕球するのを断念する望未。ファースト山口、ピッチャー柳沢がゴロへ動き出すも、柳沢が近いか?
(切れる? ファールか?)
 一瞬柳沢は判断に迷うが、このタイミングならアウト二つ間に合う。
 スリーフットレーン〔*守備妨害が起こり得る状況時、走者が走らないといけないゾーン〕付近、柳沢が打球まで後一歩、その脇を打者走者が駆け抜ける。顔を上げて一塁ベース上に目を移す柳沢。追いついて掴んだはずのボールは柳沢の手には無く、さっきまでの進路とは方向を変えて転がっている。
 ファンブル……?

 血相を変えてボールを拾い直す柳沢。三塁ランナーが二度目のホームを踏む、全てのランナーがベースに到達……主審が『ホームイン』を宣告する、サヨナラ負けである。
「守備妨害だ、バッターの足がボールに当たった」
 柳沢が思わず物申す。もし本当ならインターフェアで打者はアウトとなる。
「守備妨害はない」
 審判は応える。
「それならファールのはずだ」
 柳沢はあくまでもバッター走者の足に当たってボールが動いたことをアピールする。フェアゾーンで触っているならアウト、ファールゾーンならランナーの進塁は認められない。不自然にボールの軌道が変わったことは確かである、柳沢の言葉通り足に当たっていた可能性は十分ある。
 しかし審判たちは、ボールの軌道が急に変わったのは柳沢の手が触れたからだと判断、試合は終了される。
 
 結果三対二、大城学園、準決勝惜敗。
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