第152話

文字数 742文字

 カウントはボールツーのストライクツー。
(柳沢さん、追い込んでます、バッター集中で。ボールになるのを怖がらないで、しっかり腕を振りましょう)
 柳沢の決め球は更科戦でも見せた落ちるボール、制球力もある。望未の意志も伝わった。
 六球目、外に構えた望未のミットよりコースはやや真ん中だ。ストライクゾーンにバッターはスイングする、ボールが落ちる。
「ファール」
 球場全体が大きく息を吐く。
「フゥー」
 望未も緊張をほぐす。制球力を当てにしていた矢先のことでつい力が入った。満塁のこの場面、ワイルドピッチ、デッドボール、フォアボールなどの自滅は最悪である。打球なら良い当たりでも正面に飛ぶこともあれば、ファインプレーだってある。
「オーケー、ナイスボール」
 球審から渡されたボールに念を込めるように両手で馴染ませ、力強く返球する。

 外角ストレート見送ってボール、外角ストレート見逃しストライク、内角カーブ空振りストライク、外角ストレートカットしてファール、外角ボールになるスライダー選んでボール。そして今のファール。
(考えるべきは、見逃し方。五球目のスライダーもしっかり見逃している。外は良く見えている?)
 ゾーンに入ってくる変化球はしっかり振ってきている。
(変化球が甘く入るのを待ってる? 引っ張って速い打球で内野を抜きたい、外の球はカットで粘る、そんなところか……)
 望未としてはセカンド越川、ライト仙波の方に打たせたい気持ちがあった。
(選ばれて押し出しするくらいなら……速い打球ならゲッツーも取りやすい)
 膝元にストレート、速い球を要求する。強気のリードである。サインに頷く柳沢。
 
 守備陣が、五人の内野手たちが、二人だけの外野手が、そしてバッテリーが『野球』に研ぎ澄まされていく、勝負である。
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