第133話 面白い? 面白くない?

文字数 651文字

「しまった、釣られた」
 豊橋の誘いに不用意に飛び出してしまった颯来。もう豊橋は打って出ている。

 颯来対豊島の準々決勝、一分間の延長戦のサドンデス。三十秒が過ぎていた。
 何の返し技を出すべく準備もないままチョンと前に出させられてしまった。構えが崩されていないことだけが幸いである。
(小手だ、豊橋は小手打ちだ、守れぇぇぇ)
 守るに必死の颯来は、予知も思考も猶予など何もない。ただ本能のままに右に竹刀を倒しながら肘を引いて右籠手を隠した。

(あれ?)
 接近した豊橋と目が合った気がした。豊橋も驚いた顔をしている、確かにそう見えた。実際颯来も不思議であった。
 まるで時が止まったようであった。刹那を争う剣の世界で、打ち合った最中に考える時間があるなんて。

 豊橋の竹刀は颯来の籠手に当たるどころか、颯来の竹刀にくっついたように豊橋の身体ごと右側へ引っ張り出されていた。
 豊橋の体制は崩れている。
「アッ!」
 静止画のような世界が終わり、コマ送りで豊橋の口がそう動き出した瞬間、颯来の竹刀が豊橋の面を叩き割る。
「メンだー」
 一斉に旗が上がる。

「え? 何、何? どうなったの?」
「……やりやがった……」
「颯来、勝ったの?」
「そ、凄い返し技でね」
「キャー、やったー。やったね千城君」
 喜ぶ愉香。強制的に一緒に喜ぶ千城、しかしその目は笑っていない。

 千城の準々決勝、準決勝、颯来の準決勝、それぞれ順当に勝ち上がる。つまり千城対颯来の決勝戦が行われる。
「面白くなってきた」
 先に決勝進出を決めていた千城は不敵な笑みを浮かべた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み